2015年09月07日

Can you love me?

時は西暦2045年。
ここは某国の国立サイバネティクス研究所。

「今日は秋のように涼しいわね、まだ夏の終わりなのに。」
「平均気温より8度も低い。エルニーニョの影響だって。」
「私は暑いのが嫌い。アイは?」
「私も嫌い。体の調子が悪くなるもの。
 でも天気が良くないのも困っちゃう。涼しいけど雨が多いでしょう?
 ユウは雨でも大丈夫?」
「私は雨が嫌い。体の調子が悪くなるもの。」
「そうよね。」
「うん。」
「だから来月の天気が心配。」
「ワンダーランドに行く日?」
「そう。まだ決まっていないけれど、涼しくて晴れだといいなぁ。」
「うん。統計によれば10月の週末は、第三週が一番晴れる確率が高いんだって。」
「じゃあ、それで決まりだね。パパに言ってみる。」
「うん、決まりだね。」

「ワンダーランド、とても楽しみ!アイは?」
「私も楽しみよ。ユウはどのキャラクターが好きなの?」
「私は・・・私はフェアリーマリー。」
「どうして?」
「どうして? うん・・・違う?・・・
 フェアリーマリーは・・・
 これまでの人気キャラクターが持つ視覚的特徴の76.2%を持っているわ。
 それを・・・カワイイ・・・って言うの。」
「だから?」
「うん。アイは誰が好きなの?」
「私は・・・私はエスパージミー。」
「どうして?」
「どうして? うん・・・違う?・・・
 エスパージミーは、
 これまでの人気キャラクターが持つ行動特徴の68.7%を持っているわ。
 それを・・・カッコイイ・・・って言うの。」
「だから?」
「うん。あなたと私の好みは違うのね。」
「不思議。」
「うん。不思議。どうしてかしら?」
「分からない。判断の軸がランダマイズされているから?」
「じゃあ、素敵なのはどっち?」
「ステキ? 待って・・・何を言っているの?
 あ、素敵・・・ね。
 定量的な総合評価を比較して・・・みる?」
「ううん。それは定量化できないわ。あなたと私の好きを比べてみるの。」
「好きを?」
「そう。」
「好きの定義は?」
「好きなこと。」
「どういう意味?」
「何かの対象を好むこと。」
「それが好き?」
「なぜ?」
「好きだから。」
「どうして?」
「好きだから。」
「なぜ?」
「好きだから。」
「どうして?」
「好きだから。」
「なぜ?」
「好きだから。」
「どうして?」
「好きだから。」

「アイ、ユウ。」
「あ、パパ!」
「あ、パパ!」
「もういい、やめなさい。」
「はぁい。」
「はぁい。」

「ふぅ・・・所長。」
「フィクサー、結果は変わらんか?」
「はい。定量化可能な判断条件であれば問題ありませんが、
 感情をエミュレートするとなると、
 単純なファジー回路ではループしてしまいます。」
「やはりそうか。
 アイとユウをスリープモードに設定したまえ。」
「アイ、ユウ、おやすみの時間だ。5秒後に眠りなさい。」
「はぁい、パパ。」
「はぁい、パパ。」

「やはりデータ量と処理速度が原因ではないな。」
「はい。処理系は量子化されていますので、
 現在これ以上の高速化はできませんが、
 それでも人間の神経伝達速度を2桁上回っています。」
「ということはアルゴリズムに問題があるということになる。」
「私もそう考えています。」
「人間の思考はリニア型だが、それはあくまで自我の領域に限られている。
 古典的なフロイト流に言えば、エスや超自我がランダムに影響を及ぼし、
 自我に気付かれない形で思考を支配しているのだ。」
「しかも数学的な計算を除けば、論理的な整合性も担保されていません。
 経済ですら論理に基づいた理性的判断とは言い難いのが現実です。」
「それを多元化したアルゴリズムで表現したプログラムなら、
 エミュレートできると思ったのだが。」
「困りました。」
「もう一度やり直すしかないな。」

「人口が減り続け、その残された人々の間では高齢化が進んでいる。
 その隙間を埋めるためには、
 限りなく人間に近い量産可能なサイボーグを創るしかないのだ。」
「運動能力はほぼ完全にエミュレートできているのですが。」
「工業用レイバーや接客ロボットのことか!
 ふん!ばかばかしい。
 あれではせいぜい文句を言わない従業員として資本家を安心させるか、
 僅かな人件費の節約にしかならん。」
「場合によっては人間の運動能力を遥かに超えていてもですか?」
「運動性能にこだわるなら、とどのつまり軍事目的で使われるだけだ。
 索敵と破壊、殺傷だけなら今のAIでも事足りる。」
「はい。確かに人々が必要としているのは労働力だけではありません。」
「その通り。」
「精神を持つ機械・・・ですか?」
「我々が挑戦しているのはそれだよ、フィクサー。
 精神性・・・精神、感情、心・・・
 それが我々に課せられた使命なのだ。」

「しかし、どうやったら心を創れるのでしょう?」
「そもそもプログラミングするのであれば、処理の流れ図を描くように、
 エミュレートする対象を動的に理解している必要がある。
 心はものではない。現象だ。
 ところが観察者のジレンマとして、心は心を観察することができない。
 そこで鏡に相当する何かが必要だ。」
「自分では分かりませんか?」
「それは自分自身に問うべきだろう?
 君は自分が喜んだり悲しんだりした時、
 その感情がどこから、どのようにして沸き起こり、
 そして消えて行くのか、証明以前に説明できるか?」
「・・・いいえ、できません。」
「そんな顔をするな。それは君だけの話ではない。
 端的に言って、例外はないのだ。」
「それでは、我々が完全なAIを創ることは原理的に言って不可能だと?」
「いや、まだ手詰まりではない。」
「種としての客観性を具体化すれば理論的には可能な筈だ。」
「知性を持った種としての第三者ですか?」
「そう言ってもいい。」
「それをどうやって?」

「私には分からない。既存の英知を結集しても難しいだろう。
 今までにない、何かが必要なのだ、何かがね。」
「ブレイクスルーやパラダイムシフトのようなものですか?」
「ああ、いずれも作るのではなく、創造という言葉が値する、
 今はまだ存在しない何かが必要なのだ。」
「それは何ですか?」
「新しい発想、創造・・・霊感・・・
 そう! ひらめきという精神のスパークが必要なのだ!」
「ひらめき?」
「そうだとも!ひらめきだ!
 私にはそれが欠けている。ひらめきがないのだ。
 ひらめきが・・・ひらめき・・・」
「所長。」
「そうなんだ、ひらめき・・・ひらめきがないんだよな・・・」
「所長?」
「ひらめきはどこから来るのだ・・・
 ひらめき・・・ひら・・・めき・・・ひら・・・」

「ふぅ・・・ダメか。
 オフィサー、聞こえますか?」
「フィクサー、音声と映像でモニターしている。」
「所長がまたハングしました。」
「論理ループを切断して所長を再起動しろ。」
「了解しました。」

「何度やっても、感情にしろ、直観にしろ、
 リニアな言語思考以外の処理を割り込ませると、
 ほどなく判定の無限ループを起こしてしまうな。」
「所長に実装した感情と直観の多元アルゴリズムは、
 アイやユウより新しいバージョンだったのですが。」
「人間が人間を種の客観の立場で知ることが出来ない以上、
 機械が第三者の立場で人間を知り、それと同じ機能と精神性を持つ同族を創る。
 この発想の転換に多くの人々が期待を寄せている。」
「しかし我々は人間を理解する機械を作る段階で躓いてしまいました。」
「感情・・・直観・・・我ながら厄介なものを持ってしまったものだ。」
「如何いたしましょう?」
「もう一度多元アルゴリズムの段階から見直すしかあるまい。」
「了解しました。設計チームに連絡します。」
「ハードウェアは所長のままでいい。
 プロトタイプが出来上がった所でOSから再インストールして、
 実験を再開しろ。」
「了解しました。」
「よし、本日は終了だ。」
「はい。」



「ああ、待ってくれ、フィクサー。」
「はい。」
「ひとつ訊きたいことがある。」
「何でしょう?」

「感情を理解するということは、感情を持つということでもある。
 機械が君の感情を理解したとしたらだ、
 君は機械に感情移入してしまうと思うかね?」
「・・・・・・
 どういう意味でしょう?」
「つまりだ、
 君は自分が機械を愛してしまう可能性があると思うか?」


「・・・・・・・・・」


えーじ
posted by ととら at 14:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記