2016年12月08日

第4回研修旅行 その6

僕の旅先の楽しみの一つがマンウォッチング。
空港の雰囲気は独特で興味深いのですが、
一番面白いのはローカルの日常の姿が見れる場所です。

例えば市井の飲食店。
今回もローカルでごった返す昔ながらの飲茶店で、
ちょっと早い昼食を食べていた時のこと。

僕たちはひとつの大きな円卓を8人でシェアしていました。
ともこの隣はひとり飯の40歳台半ばの男性。
彼は時折スマートフォンに目を落としつつ点心をつまんでいます。
彼の右側には空席が一つ。

店内は凄い喧噪です。
料理を乗せたワゴンは店内を回る間もなく、
キッチンから出るとすぐお客さんに取り囲まれ、
瞬く間に完売。
僕らも黙って座っていては何もありつけません。

――― よ〜し、そんじゃ僕も突撃しようじゃないか。

そう意を決して立ち上がろうとした時、
70歳代後半と思しき男性が、
お客さんで犇めき合う通路を覚束ない足取りで、
近付いてくるのが目に入りました。

――― ありゃりゃ、じいちゃん、大丈夫かな?

と思った矢先、先の男性がすっと立ち上がり、
空席を指差して何か話しかけたのです。

「ご老人、この席が空いていますよ」(多分こう言っていたのだと思います)
「あ、ああ、ありがとう、すまないね。
 しかし、わしは後ろを人が通る席は落ち着かんのじゃ」
「そうですか、では・・・あ、向こうに空席がありますよ」

男性は隣のテーブルを指しています。
そこからじいちゃんの手を引いて席に座らせました。

「お茶はどれがよろしいですか?」
「ポーレイ(プーアル茶)を頼んでくれないか」
「点心は何を召し上がります?」
「そうだな、まず魚介の蒸し物がいい」

男性は給仕に茶の種類を伝え、
ワゴンに行って蒸籠をひとつ持って来ました。

――― ・・・?
随分甲斐甲斐しいじゃないか。知り合いなのかしらん?

彼はじいちゃんの前に点心を置くとすぐ自分の席に戻り、
何事もなかったように食事を続けています。
そしてほどなく伝票を持ってレジへ行ってしまいました。
じいちゃんには挨拶なし。

――― ・・・? 知り合いでは・・・なさそうだな。

そうか、さすがは儒教を生み出した国。
周りをよく見ていると、
お年寄りたちは、そこはかとなく敬意を払われています。
電車の中でも若者たちはお年寄りが乗って来ると、
すぐに席を譲っていましたし。

もうひとつ気付いたのは、香港のアイデンティティ。
彼らは中国人ではなく、香港人なんですね。
クッキングクラスで使う食材を買いに、近くの市場へ行った時のこと。
ところ狭しと並ぶ新鮮な野菜や肉、魚介を前に、
いろいろ質問していたら、
インストラクターのジョイスさんが面白いことを言いました。

「こっちの野菜は香港で採れた物。すごく質がいいのよ。
 で、こっちは中国から入って来た物ね」

分かります?
この何気ない表現に現れた香港人のアイデンティティが。

こういう言い方は日本ではまずしないでしょう。
たとえば沖縄の公設市場で同じような質問しても、
産地が鹿児島とか北海道という言い方はしても、
「ああ、それは日本産だよ」
とは言いません。

彼女たちの中で香港は中国の経済特区ではなく、
気持ちの上では香港そのものなのかもしれません。

その香港も最後に訪れた12年前に比べて、
ソフトの面で大きく変わったと思います。

一番それを感じたのがまたしても飲茶の店。
サイインプンの外れにある狭い店に入った時のこと。
同席の人たちは、
不器用な手つきで食器を洗う僕らをすぐに外国人だと分かったでしょう。
僕が持ってきた点心を食べようとすると、

「あ、それはこれをつけるのよ!」

正面の女性が片言の英語で話しかけてきました。

「え? これですか?」
「いえ、反対側の・・・そうそうそれ、お酢よ」
「謝謝」
「どちらから来たのですか?」
「日本です。ああ、うまい! ここの点心は絶品ですね!」
「そうでしょう?
 もう一つの皿はそのまま食べてみて。味が付いているから」

かつて返還前の香港を訪れた時は殆ど英語が通じなくて驚きましたが、
今回は逆に話しかけられてびっくり。
しかも、心なしか街に笑顔が増えた気がします。

12年振りの香港。
フライトタイムだけではなく、
心の距離も近くなった気がしました。
近々また行きたいなぁ・・・

えーじ
posted by ととら at 21:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記