2017年05月22日

母と娘の食卓

あゆみちゃんと、ととら亭は同い年。
2010年3月に生まれました。

それから間もなく、あゆみちゃんのお母さんは、
お父さんが留守番をしていてくれる週末に、
時々ととら亭を訪れては、一人の時間を楽しんでいたのです。

ある日、僕は彼女に尋ねました。

「たまにはご家族で如何ですか?」
「え〜! まだまだ無理ですよ! じっとしていられないので」

そうして5年、6年と月日は流れ、
あゆみちゃんは、小学生になりました。

今年も春が来て、桜が咲いた後のディナータイムのこと。
僕が暖簾を出して間もなく。

「いらっしゃいませ。あれ?」

その晩の最初のお客さまは、あゆみちゃんのお母さん。
しかし、彼女の後ろから小さな女の子がのぞき込むように顔を出しました。

「ほら、おじさんにご挨拶は?」
「・・・・こ、こんばんは」

ずっと前から、
お母さんと一緒にととら亭へ行きたいとねだっていたあゆみちゃん。
大人と一緒にいい子にしていられるか、
約束できたら連れて行ってあげる、とお母さんに言われていたそうです。
今夜はいよいよ彼女のデビューのよう。

テーブルに案内してメニューを渡すと、
あゆみちゃんは緊張しているのか、背筋をぴんと伸ばして思案中。
ほどなくして僕は注文を取りに戻りました。

「何が欲しいの? おじさんに言って」

お母さんは自分で注文させようとします。

「ふらん・・ぼ・・わーず・・ソーダください」

あゆみちゃんは上目遣いで言いました。

「かしこまりました」

僕は相手がきちんと話せるのであれば、
幼児言葉を使いません。
小さくてもレディには敬意を払います。

飲み物を出し、料理が並ぶと、少し慣れて来たのか、
それまで押し黙っていたあゆみちゃんが話を始めました。

「どう? あの子食べれてる?」
「ああ、問題ないよ」

キッチンのともこも気になっているようです。
僕らは遠く目に、母と娘のテーブルを見守っていました。

静かな月曜日の夜。
二人の笑顔と楽しそうな会話。

母と、娘と、心を込めた料理。
ポータブルゲームマシンやスマートフォンなどなくても、
その空間には、二人の幸せに必要なすべてが揃っていました。

「ごちそうさまでした!」

会計の時、
入って来た時とは別人のような笑顔を浮かべたあゆみちゃんが、
お母さんに促されることなく自分から言った言葉。

「ありがとうございました」

ととら亭はあゆみちゃんのように話すことは出来ませんが、
やっと来てくれた友だちの背中を見送り、
とても喜んでいたと思います。

とある春の夜のことでありました。

えーじ
posted by ととら at 16:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記