2017年07月13日

料理長の憂鬱

ととら亭を始めて8回目の夏。
旅のメニュー変えをやりつつ、「今度で何回目かしらん?」
と数えてみれば、
第1回の『世界の市場料理特集』以来、なんと30回目!
再現した料理数も34ヵ国94種。

よくもまぁこれだけやったというか、
皆さまもお付き合いしてくださったと申しますか、
正直、ほぇ〜・・という感じです。
同業者であれば説明は要りませんが、
フツーやりませんね、こんなこと。

というのも料理業界の慣習として、
一般的には修業したジャンルの料理を独立後もやるものです。
和食なら和食。イタリアンならイタリアン。
中華料理を修業した料理人が突然ドイツ料理レストランを開業する、
なんてのは、聞いたことがありません。

理由は言わずもがな、
素材は共通していても、調理方法が別だからです。
そりゃそうでしょう、先の例でいうなら、
北京鍋を振っていたコックさんに、
突然ザワーブラーテン(ドイツ風ビーフシチュー)を作って下さい、
と言っても、なんのことやら? ですからね。

しかし、不幸にも、ととら亭ではこれが『通常業務』なのです。

一人で料理を担当するともこが修業したのはフランス料理とドイツ料理。
にも関わらず、
中南米はメキシコ、キューバ、ペルー、エクアドル、ブラジル・・・
アジアは韓国、インドネシア、シンガポール、ウズベキスタン、キルギス、
アゼルバイジャン、ジョージア、アルメニア・・・
中東はトルコにヨルダン、ヨーロッパはハンガリー、ポーランド、
スロバキア、チェコ、ポルトガル、ルーマニア、ブルガリア・・・
はてやアフリカはモロッコ、チュニジア、エチオピア・・・

これらお互いに素材のみならず、
調理方法に関連性のない料理を約3カ月ごとに切り替えて出す。
こりゃたまらんですよ、実際。
だから労働時間がひとり400時間/月という、
ブラックレストランになっちゃったんですね。

で、その無理難題を押し付けているのが僕・・・

と思っているお客さまが少なくないようですけど、
違いますよ。

確かに取材先の候補を探し出すのは僕ですが、
そもそもととら亭のコンセプトは二人で考えたものですからね。

ともあれ、ここまで大変になるとは、正直考えていませんでした。
そこで料理を再現する上での僕の役割は、最初のレシピの解読。
これはゴルフに例えるなら、最初の一打。
ドライバーでガーンとグリーンに乗せるところです。

で、オンしたのを見届けたら選手交代。
ともこが自分なりのプレイでホールに近付けて行きます。
僕は彼女がバンカーにはまらない限り、後は基本的にお任せ。

ところがともこに言わせると、
ここからのパターでホールに沈めることこそが難しいそうで。
(もうちょっと僕の仕事を評価して欲しいものですが・・・)
そういえば今回もホールのすぐ手前で、行ったり来たりしていましたね。

それじゃちょっと訊いてみましょうか。

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ともこです。

今回いちばん苦戦したのは『ペリペリチキン』。
南アフリカのケープタウンで食べて、
一口でふたりともすごく気に入ったお料理です。

えーじの訳してくれたレシピの通り、まず1回目の試作。
美味しいけど何か違います。(えーじのレシピは大雑把なんですよ!)

ここから現地で食べたのと限りなく同じものを作る為の作業がはじまります。
レシピを考える時は、科学の実験をしている気分。
イメージした味に近づけるため、1グラム単位で変えて結果を比べて行きます。

この料理のチキンをマリネするペーストに入っている材料は14種類もあるんですよ。
味がイメージ通りでない時は、
どれを足してどれを引くか、一つずつ試してみるしかないのです。
今回は酸味と辛みのバランスがなかなかうまく行かなかったり、
玉ねぎの生臭さが消えなくて、えーじに八つ当たりしそうになりました。
(気配を察して逃げちゃいましたけど)
それでもサンプルで買ってきたびん詰のソースと味を比べながら、
調整して行ったのです。

やっと味が決まってもチキンのマリネ時間、焼き方、
焼く時間、オーダーが入ってからの提供の仕方など、
まだまだ完成するまでには越えなくてはならないハードルがいくつもあります。
定休日は誰もいないととら亭でひとり黙々と試作を続けるしかないのです。
何度やってもうまく行かない時は焦ってきて逃げ出したくなることもあります。
でも旅の景色と旅先で出会った人たちの顔を思い出して、
何があっても仕上げて紹介しなくちゃ!
とまたガンバる気が起きるのです。

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再びえーじです。

そんなこんなで始まった南アフリカ料理特集
昨日の初日は3種類すべての料理にご注文を頂き、
くだんのペリペリチキンも上々の評判でした。

ま、ともこも言う通り、
再現に向けた紆余曲折はなかなか骨が折れたようですけど、
お客さまの笑顔と「美味しい!」の一言で、
すべてはOKになっちゃうんですよね。

とどのつまり僕たちの最高の報酬とは、それなのかもしれません。
posted by ととら at 16:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記