2017年08月31日

夏の終わりと終わらない旅

今日で8月も終わり。
東京は霧雨が降る涼しい秋の入り口です。
来月もまだ暑い日があるとは思いますが、
気分的にはもう夏ではありませんね。

ととら亭でも今日からポタージュを温製に変え、
おしぼりを温めて出しています。
そうそう暖簾も、
ととらレッドが基調のスリーシーズン用に変えなくては。

皆さんにとって、この夏はどんなことがありましたか?
今でこそ僕らは仕事に明け暮れていますけど、
20歳代のころは、夏といえば冒険の季節でした。

といっても植村直己さんやトール・ヘイエルダール氏のように、
前人未到の冒険に挑戦するのではなく、
それは自分にとって未知の世界へ足を踏み入れることです。

その意味でなら冒険は誰にでも出来ることですし、
実際、意識するかしないかは別として、誰もがやっているのですよ。
たとえば、それが隣町であったとしても、
行ったことがないのであれば、それも一つの冒険ですからね。

僕たちは例外なく、生まれて間もなくは、
幻想と想像の世界に住んでいます。
そして少しずつ、
長い年月をかけながら体験を通し、
自分を取り巻く世界という現実を知るのです。
それは言い換えると人生そのものが冒険の旅だと言えるでしょう。

いろいろなことを知った大人であっても、
この旅が終わったわけではありません。
世界は僕たちの想像を超えた広がりを持っていますからね。

衛星写真やインターネットの情報で切り取られたものは、
部分と全体の文脈でいえば、
砂丘の砂粒程度のものでしかありませんし、
そもそも情報は幾ら積み重ねても現実に還元できません。
それは体験するしかないのです。

先日、酷暑の昼下がり、
平和の森公園でジョギングしていた時に、
空を見上げて大きく息を吸ったら、
ライダーの頃、
この時期に夏を追いかけて走った南への旅を思い出しました。

ああ、この風の匂いは、
焼けた国道で感じたものと同じじゃないか。

乾いた4ストロークエンジンのエグゾーストとヘルメットに当る風の音。
眩しい太陽と吹き付ける熱気。
どこまでも青い空を背に湧き上がる積乱雲。

あの陽炎が揺れる道の彼方に何があるんだろう?
もう1時間走ってみようか。
もう1時間。
そしてもう1時間。

旅を続けて知ったことのひとつは、
青春のころに走り始めた道には終わりがないということでした。

そう、今でも僕は、
あの日差しに焼けた冒険の道を走っているのですよ。

えーじ
posted by ととら at 16:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月26日

『お休み』の裏側で

今月から金曜日のランチをお休みさせて頂くことにしました。

ウェブサイトの【おしらせページ】にも書きました通り、
理由は「仕込みが間に合わないため」。
と言うと、
ともこだけの都合のように聞こえてしまうかもしれませんが、
実は僕の方もかねてから仕事が溜まる一方で、
時間の調整は積年の懸案事項だったのですよ。

そんな訳で今は13時45分。
普段ならランチタイムですが、暖簾を下げた店の中で、
二人ともそれぞれ地味に仕事をしています。

ともこはさっき届いたムール貝の山と格闘中。
南アフリカ料理特集の前菜で、
『ムール貝のカレークリーム煮』がありますよね?
あれの素材の下処理です。

具体的に何をしているのかというと、
貝の表面の汚れ落とし。
これは単純に砂や海藻を取り除くだけではなく、
親亀子亀式にこびりついた他の貝を、
ゴリゴリ金タワシで剥がす難作業。
これが男性のコックさんでも音を上げたくなる重労働なのですよ。
そしてキレイになったら下茹でです。

僕の方は明日から変わるアンコールメニューの刷り物作りと、
ウェブサイトの更新を黙々とやっています。
今回はアンコールではなく、
新しい旅の料理を追加で紹介するプラス1なので、
キャプション書きや写真撮影など、追加のタスクが盛りだくさん。

さて、ウェブページが形になりましたから、
来月の営業スケジュールも合わせてアップしましょうか。

→ おしらせ

ほんと、こうしていると時の流れの速さにため息が出ます。
9月3日でととら亭を始めて7年半になるんですよ。
再現した世界各国の料理も96種類。
今年中には100の大台に乗せられるかな?
頑張りたいと思います。

えーじ
posted by ととら at 02:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月23日

数字じゃなくて

ある日のディナーで。

「ねぇ、えーじさん、
 会社員をやってたころにどんなストレスがありました?」

カウンターからそう訊いてきたのは、40歳台前半の管理職の女性。
いつも元気溌剌とした彼女が今夜はちょっとブルーな様子です。

「スーツを着ていた頃のストレス? そうだねぇ・・・」

僕はこと自分自身に関してならかなり楽観的なので、
あんまりイライラしないたちなんですが、
やっぱり組織で働くとなると話が変わります。

「ぱっと思い浮かぶのはふたつかなぁ・・・」

ストレスのひとつ目は『評論家』。
これは会議の席上では基本的に沈黙し、
その後、誰かのやった仕事について、
あれこれ批評を展開する人たちです。

「ではどうしたらいいとお考えですか?」
と質問すると、
「それを考えるのはそちらの仕事じゃないですか」
と返すのが得意技。
たいてい職務権限表と組織図で白黒はっきり理論武装していますから、
グレーゾーンでこぼれ球を拾わにゃならん僕たちには始末におえません。
けしてユニフォームを着てグラウンドに降りることはせず、
安全な観客席からヤジだけを飛ばしてきます。
とにかく批判の矛先が向くテーゼはけして出して来ない。

僕のいた部隊はユーザーさんと直結しているケースが多く、
絶望的に限られたリソースで、
どうにか結果をひねくり出さねばならないというミッションの性格上、
しばしば超法規的動きをしていましたから、
彼らの格好のターゲットにされていました。
ま、社外でドンパチ戦って帰ったら社内で後ろからパン!
と撃たれるのはストレス以前の話でしたけどね。

もうひとつは個人的にもっとも衝撃的だったもの。

それは『変化を嫌う人々の多さ』です。

たとえば、
『業務上の事件が起こり、関係者がどひゃ〜っ!となる』
で、
→『火事場に投入されて何とかする』
→『焼け跡で原因を調べる』
→『再発防止策を立案する』

ここまではいいんです。
しかし・・・

→『再発防止策を実行』しようとすると・・・

このしらけた現場の温度差はなんだろう?

あ〜、思えば僕も青かった!

先般発生したA事案の原因はBでした。
そこで原因Bを取り除く対策のCを立案しました。
C案を実行することにより現場の業務環境は改善されます。

ハラショーでしょ?
こんな単純なロジックで、ことが前に進むと楽観していたのです。

ところが、
現状業務に何らかの変化が起こると分かった時に示されたネガティブな反応は、
僕の想像を超えたものでした。
そしてようやく学習したのです。
多くの人々にとって現状が良くなるか悪くなるかという『結果』は、
あまり大きな問題ではない。
避けたいのは変化そのものなのだ! という事実を。

「とにかくさ、100点満点は狙わず、
 オフィシャルには言えなないけど、
 妥当な落としどころを目指して落着させる、
 って個人的政治的戦略が必要だったんだろうね」
「はぁ〜・・・ですよね〜・・・」

大変だなぁ・・・

彼女と話していて、
業種が違っても中間管理職の悩みはあんまり変わらないんだな、
と思いました。

で、今はどうだって?

幸いそうしたストレッサ―がととら亭にはありませんから、
月400労働時間超/1人のブラック環境にもかかわらず、
僕は7年半もやりがいを持って働いています。

思えば昨今世間を騒がせている労働環境にかかわる諸々の問題は、
とどのつまり労働時間や賃金という雇用条件が示す数字より、
むしろ個々人のメンタリティーに起因しているのではないか?

そしてその集合体が、
社風、校風などと呼ばれる、もわんとした独特な心理空間を作り、
それに染まれるか否かで個人のモチベーションが決まる。

じゃないのかな?

うん。
数字ではないんですよ。

えーじ
posted by ととら at 15:02| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月19日

奇妙な採用面接

僕が会社員のころ、
不幸にも僕に採用面接を担当された方たちがいました。

システム管理の部署でしたので、
自ずとその方面の質問をするのですが、
よくある「資格は何をお持ちですか?」とか、
「以前の業務経験はどのようなものですか?」ではなく、
「WindowsOSサーバーでブルースクリーンになり、
 STOP:の後に16進数のコードが表示された場合、
 あなたはどうしますか?」
とか、
「オフィスで使用しているあなたのPCのアンチウイルスシステムが、
 ネットワークワームを検知した場合、あなたはどうしますか?」
など、実戦でしか学べない質問をすることで、
即戦力となる経験値を確かめていたのです。

しかしそれ以上に候補者の方々が面食らったのは、

「この職場では1日に100メートル走が4、5本ありますけど、
 大丈夫ですか?」

という質問でしょう。

え? 何それ?

まぁ、これはオンサイトユーザーサポート業務での話ですけど、
緊急時には同じビル内(といってもかなり広い)の現場まで、
急いで駆けつけねばならなかったのです。
しかもそうした事案が頻発していました。

一般的にIT稼業と言えば、
涼しくてきれいな印象を持っている方が少なくなかったのですが、
実はネットワークチームなんかに回されると、
スーツを着ててもヘルメットを被って、
天井裏や床下に潜り込むなんて日常茶飯事。
ですから将来有望な若者たちが「こんなはずしゃなかった!」
とならないよう、つつみ隠さず現実的な質問をしていたのです。

そんな話を思い出したのも先日入った一本の電話から。
ともこが出てみると、

「あるバイとわ、ボシュウしていマスか?」

と、聞こえてきたのはたどたどしい日本語。
深刻な人手不足が世界的に有名な日本の飲食業界ですから、
あわよくば仕事を! と思った外国人の方でしょう。

しかしながら僕たちには『雇わず雇われず』という、
ととらルールがありますし、
残念なことに、そもそも従業員を雇う経済的余裕がありません。
そこでお返事は「ごめんなさいね」になってしまったのですが、
もし、面接するとしたら、今度はどんな質問をすべきでしょう?

たとえば『株式会社ととら亭』で正社員を募集したなら、
僕らとほぼ同じ仕事をすることになります。
となると・・・

調理師免許の有無?

いや、そんなことよりも・・・

【勤務地の条件】
 本社内における就労場所の温度差は、
 気温マイナス2度から36度の幅があります。
 また出張先ではマイナス20度から44度となり、
 殆どのケースで冷暖房の設備はありません。
 標高はマイナス400メートル(死海)から5500メートル
 (ウユニ塩湖からチリのサンペドロ・デ・アタカマへ抜ける山岳地帯)
 が就労範囲です。

【求められる身体的スキル】
 ・飛行機のエコノミーシート、空港のベンチ、テント内など、
  どんな場所でも眠ることができますか?
 ・時差ボケしない体質ですか?
 ・夏バテしない体質ですか?
 ・20キロ以上のバックパックと5キロ以上のサブザックを背負って、
  山道を終日歩けますか?
 ・なんでも食べられますか?
 ・2週間以上繰り返し、空腹ではない状態でも満腹以上まで食べられますか?

【求められる知的スキル】
 ・言葉の通じない環境でひとり、宿を探し食事をすることが出来ますか?
 ・スマホやPCがなくても情報収集ができますか?
 ・火災や事故、暴動に巻き込まれた時に冷静に対処できますか?
 ・軍隊や警察官にカツアゲされている時にジョークを一つ以上言えますか?
 ・身ぐるみはがされた場合でも必要最低限のものを現地調達できますか?
 ・行動に支障が出るレベルで体調不良となった場合に、
  ひとりで対処できますか?

とまぁ、こんなことを質問しなくてはいけないと思います。
しかし最初に、

トイレも紙も水もない状況で大小問わず用をたせますか?

と訊くだけで、たいてい面接は終了するでしょうね。

あ、いちばん現実的な質問は、やっぱりこれかな?

あなたの年収は当社の代表取り締まられ役と同等になりますが、
それでもよろしいでしょうか?


えーじ
posted by ととら at 16:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月15日

『話せばわかる』世界へ

僕は暴力が嫌いです。

そしてこのブログを読まれている方は、
僕らが旅先で多くの人々に助けられていることから、
しばしば「地球人は基本的に親切だ」
と言っているのを覚えているでしょう。

助けられて成り立つ旅。
これはまぎれもない事実ですし、
僕が人間性善説に立っている理由に他なりません。

しかし、現実には大きな矛盾があります。

これまた皆さんがお気付きのように、
僕らの旅のセキュリティは、100パーセント人間性悪説に立っているのですよ。

たとえば、
空港や駅などで笑顔を浮かべて近付いてくる人を、
僕は完全に悪党だと見なしていますし、
荷物から目を放すことは絶対にしません。

公衆環境で話しかけてきた相手の言うことは一応聞きますけど、
何か仕掛けてきているという前提に立っているので、
物理的にも心理的にも距離を置いています。

また鍵が壊れていたり、
容易に侵入できる構造の部屋に泊ることはしませんし、
場合によっては、反射するショーウィンドウなどを利用して、
追跡者の有無もチェックしています。

これは今までの旅を通じて学んだ数々のイタイ教訓から、
自ずと身に付いた、いや、付いてしまった習慣なのです。

確かに地球人はやさしく親切です。
しかし残念なことに、バカッタレはけしてゼロではありません。
そして不運にもそうした連中に遭遇してしまった場合の代償は、
時に取り返しがつかないものになることがあります。

加えてもうひとつ。

正直申し上げますと、
僕は軍隊が好きではありません。
さらに本音を言ってしまうと、警察も嫌いです。
なぜなら共通点として彼らは武装しているから。

武器。

それは使われた相手を傷つけるもの以上でも以下でもないでしょう。

では僕は純白のローブをまとった平和主義者なのか?

そうです。

と言ってしまったら、そりゃ呑気なご都合主義者だ、
との誹りを免れないでしょう。
なぜなら、旅先で自分のことは自分で守っているように見えても、
実はここでも多くの人々に助けられているのですから。

そう、僕たちが暗黙のうちに依存し、助けてもらっている相手。
法の支配を守り、治安を維持している人々。
僕らの旅のセキュリティも、
僕が嫌いな軍隊や警察の存在を前提としてこそ成り立つものなんですよ。

今日は8月15日。

昨今では自衛隊の法的な位置づけについて、
多くの方々が議論を始めています。

しかし、僕にはどうもよく呑み込めないものがあるのですよ。
いずれの議論も自衛隊という『手段の是非』がフォーカスされ、
なぜか手段の前提となる『目的の原因』についての意見がぼやけているから。

『話せばわかる』を対案として挙げているハラショーな意見もありますが、
少なくとも僕たちが不幸にも旅先で出会ったバカッタレたちは、
『話せばわかる』相手ではありませんでした。
もちろん彼らがそうなった境遇は考慮すべきですけど、
当事者として対峙している瞬間にそんなことを慮る余裕はありませんし、
なによりマジでキンタマが縮みますよ。

『対話による解決』。
これは正しい。究極的にね。

しかし、まず考えなくてはならない現実的な問題は、
『話せばわかる』ようになるまでの険しい道のりを、
僕たちはどうやって歩いて行くのか?
なのだと思っています。
しかも、のんびりやっている暇はない。

だから、永田町のセンセーたちに答えを考えて頂くのではなく、
僕たち個々人が、自分で自分の意見を持つこと。
それが『話せばわかる』世界への最短距離なのではないか?

僕はそう信じているのですよ。

えーじ
posted by ととら at 12:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月13日

ちょっとおせっかい

今から9年前に作ったととら亭の事業計画書には、
さまざまな理念が書いてありました。
その中の一つが、

『お客さまの幸せの量は、
 入店時より退店時の方が多くなければならない』


この逆はおカネと時間をととら亭に投資したお客さまにとって、
最悪の結果でしょう。
そして僕たちにとっては、ビジネス的な『終わり』を意味します。
そのお客さまは2度と来てくれませんし、
野方は一見さんばかりの観光地ではありませんから。

ところが、7年余りもこの仕事をやっていると、
この『崇高な』理念が、
必ずしも僕たちだけの努力で、
実現するとは限らない現実に気付いたのです。

たとえばある日のディナーで・・・

「いらっしゃいませ」

ご来店されたのは20歳代後半のカップル。
お二人の表情から少し緊張感が読み取れましたから、
初めていらっしゃったのだと思います。
こういうオヤジがホールにいる店は馴染みがないのかもしれません。

「こちらのテーブルにどうぞ。今夜は蒸しますね」

しかしこうして笑顔で話しかければ、
すっと緊張が解けるもの・・・

なのですが、二人の表情にはまだどこか、
楽しい食事をする前に相応しくない『何か』が感じられます。

ん? ケンカでもしたのかな?

テーブルの心理学によれば、
精神的に感応しているカップルは同じ姿勢を取るといいます。
特に二人が前傾姿勢の場合は、いわゆる『ラブラブ』状態。
ところがこの二人、料理を待つ間、楽しく語らい合うでもなく、
彼女はスマホに目を落とし、彼はぼんやり手持ちぶたさ。

おいおい、せっかくのデートなのになんてこった・・・

料理をサーブした時には彼女に笑顔が戻りましたが、
それも一瞬の花火のよう。
またすぐに沈黙が降り、あわや二人の恋は風前の灯火に・・・

そうはさせねぇ。

この状況を分析すると、へそを曲げているのは彼女の方。
であれば、恋のリカバリーオペレーションはプランAで行くべきです。

「食後にデザートはいかがですか?」

そう、これです!
名付けて Always sweets makes her smile. 作戦。

僕は4種類用意してあったデザートを、
彼の方を向いて2種類、
それから話すペースを若干落とし、
彼女の方を向いて残りの2種類を説明しました。
すると、

「僕はマルヴァプディング」
「え〜、それにするの? じゃあ・・・」

しばらく考え込んだ彼女は、

「私はアンズのソルベをお願いします」

Yes! それでいい!
キャラクターの違うデザートを2種類オーダーしたな。
ターゲットはレールに乗ったぜ!

僕は最初に彼女のアンズのソルベを、
次に彼女の視線を横切るようにゆっくりと、
彼のマルヴァプディングをサーブしました。

そしてプランAのキー。
アンズのソルベには2本のスプーンを、
マルヴァプディングには2本のデザートフォークをそれぞれ置いたのです。

完璧だ。

僕がパントリーに戻るとすぐ後ろから声が・・・

「ちょっとぁ! あたしにもそれちょうだいよぅ!」
「やだよ、これ、オレが頼んだんだから」
「いいじゃない、けちっ!」

彼が取られまいとするマルヴァプディングに、
彼女は素早くデザートフォークを突き刺し、
大きく切り取ったと思ったら一口パクリ!

「あ〜! とったな!」
「お〜いし〜!」
「それじゃそっちもくれよ!」
「やだ! あげない!」

席に着いた時とは様子が一変しています。

ふ、それでいい。

ととら亭は旅の食堂。
しかし、時にはこんなオペレーションもあるのでございます。

えーじ
posted by ととら at 15:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月11日

シアワセは早い者勝ち

南アフリカ料理特集が始まってはや1カ月。

にもかかわらず、何か忘れていませんか?

と気付いた方は、
去年のクリスマスにご来店されたお客さまでしょう。

確かあの時、
黒板メニューで、とあるスペシャルデザートをやっていたのですよ。
その名もマルヴァプディング(Malva pudding)!
プレリリースがあまりにも好評だったので、
本番でも登場と相成りました。

お約束の『えーじうんちく』から参りますと、
これは17世紀から19世紀にかけて、
オランダの植民地だったインドネシアやマラッカから、
南アフリカに連れて来られた、
ケーブマレーと呼ばれる人々が考案したとされる魅惑的なスウィーツ。

プディングといいつつも、レシピはさにあらず。

小麦粉と卵、アプリコットジャムと白ワインビネガーを混ぜて、
ふんわり焼き上げたスポンジ。
それが香ばしい匂いを漂わせつつ冷めやらぬうちに、
生クリームとバターで作った濃厚なソースを、
じわぁ〜っと染み込ませて作ります。

za_mkmalvapdding.jpg
(ソースを染み込ませているところ)

これだけでも十分ヤバイしろものなのに、
サーブする時はもう一度温めて、
熱々のマルヴァプディングに自家製アイスクリームと、
アングレースソースまで添えるという、
まことにゴージャス、デリシャス、デンジャラスな逸品!

za_malvapdding.jpg

僕も8か月ぶりに端っこを試食しましたが、
この幸福感は食後3日経っても持続中。
多分、1週間は持つでしょう。

マルヴァプディングは本日リリース。
作るのに手間が多いため生産が間に合わず、
売り切れてしまうことがあるかもしれません。

もし売り切れになってしまったら・・・ゴメンなさい。

えーじ
posted by ととら at 13:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月09日

フツーじゃない・・・でしょ?

時刻は10時43分。

コン、コン!

「はぁ〜い!」

郵便屋さん、宅急便屋さん、肉屋さん、米屋さん・・・
午前中のこの時間は、ととら亭の納品ラッシュ。
次々とビジネスパートナーの皆さんが現れ、
荷物を置いて行きます。

「今日はとびっきり暑いね! 大丈夫?」
「いやぁ〜、きついっすよ! がんばります!」

額に浮いた玉の汗をハンドタオルで拭い、
足早に次の届け先へ向かう彼ら。
本当に頭が下がります。

この時期はととら亭のキッチンも地獄の釜そのものですが、
彼らもまたその業火に焼かれるブラザーなんですよ。

外に出れば日差しを遮るもののない場所で働く、
工事現場の人々もいます。

気温は既に35度を超えました。
厳しい一日になりそうです。

いろんな研究をするのは大切だと思うんですけどね、
地球の温暖化は自然の成り行きであって、
僕たちがしでかしていることは関係ありません、と唱える方は、
一度、冷房がキンキンに効いた研究室から出て、
配送や工事の人と一緒に一日過ごすと、
あっさりその主張を翻すんじゃないかな?

フツーじゃないですよ、これ。

え?
もちろん、ととら亭のキッチンでもいいですけどね。
暑さだけじゃなく、湿度もすごいですよ〜。

えーじ
posted by ととら at 12:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月06日

作れても作れない料理 最終回

居酒屋、レストラン、回転寿司にラーメン屋・・・
飲食店と一口に言っても、その業態は実に様々なものがあります。
そしてその楽しみ方も店により、人により千差万別。
皆さんもその時の気分やニーズによって、
いろいろなお気に入りの店を使い分けているでしょう?

しかしこの使い分けは、考えてみると思いのほか複雑です。
たとえば注文の仕方ひとつをとっても、
「取りあえずビールと枝豆下さい!」で始まる気軽な居酒屋と、
食前酒を傾けながらじっくりメニューを読み込み、
「彼女は舌ヒラメのムニエルのコースを。
 私は前菜にホタテのムース、メインはカモのロースト。
 ワインは・・・」
と続けるレストランでは大分違います。
これを逆にすると実にチグハグなことが起こるのは説明不要でしょう。

あらためて考えてみると、
それぞれの業態に応じてそこには暗黙のルールがあり、
外食を利用する僕たちは無意識にそれを共有しているのです。

しかしそれはあくまで『暗黙』のものですから、
双方の『誤解』はゼロにはできません。

僕たちも飲食業界では一応プロの端くれですので、
ある程度のかけ違いは臨機応変に対応しています。
とはいえ、やはりギャップがあまりに大きいと、
例によって「すみません・・・」にならざるを得ないのが実情です。

たとえば、ととら亭がファーストフード店と思われた場合、
(年に2〜3回は今でもあります)
僕が気付いた時点で、
「温かいお料理は15分前後お時間がかかりますが、
 よろしいでしょうか?」
と店内の混雑状況に応じた待ち時間を説明します。

1年に1回くらいは食事の途中で「急いでください!」
と言われることもありますが、
こればかりはどうにもなりません。
なぜなら、ととら亭に限らず、
余力を残して料理を作っている飲食店はまずないからです。

つまり常にトップスピードで作っているため、
もっと早くと言われてもこれ以上急ぎようがないのです。
(生焼けでいいなら別ですけど・・・)

最後の手段は、他のお客さまのオーダーを全て中断し、
急いでいるお客さまを優先することですが、
これは僕たちのポリシーとしてやりませんし、
今後もやることはないでしょう。

もうひとつ厳しいのが居酒屋と思われた場合です。
確かにお酒もかなり揃えてはいるものの、
フードは根本的に違います。
業界外の方にはピンと来ないかもしれませんが、
居酒屋や寿司屋とレストランでは、
出し物の違いからオーダー後の製造工程が全く異なるため、
自ずと注文の仕方も違うのです。

たとえばもし寿司屋で席に着くなり、
「ビールに、イカとアジとしめ鯖とホタテとヒラメとタイとハマチ、
 えんがわとマグロの中トロ、最後に梅シソ巻きをお願いします」
なんて一気に注文したら板さんが怒りだすのはほぼ確実でしょう。

反対にととら亭のような、
一人もしくは少人数でやっているキッチンの場合、
居酒屋式の『取りあえずオーダー』に対応するのは難しいものがあります。
なぜなら、製造工程の多い料理を可能な限り美味しく提供するために、
オーダーを頂いた後の手順は調理器具の使用順序も含め、
かなり複雑になっているからです。

通常でも予約なしでお客さまがご来店され、
アラカルトのオーダーをされる場合、
新しいお客さまのご注文が入る度に、彼女は調理工程の段取りを組み直し、
常に全体の料理が最短時間で出るようにしています。
単純に入った順番で作っているのではないのですよ。

ですからこの調整が、
「取りあえずサラダとムール貝のカレークリーム煮」
次いで「ポタージュとムニエル」
ほどなくして「スペアリブとケバブライス」
という具合に追加オーダーが繰り返されると、
調整に取られる時間が増え、そのお客さまだけではなく、
店内にいらっしゃるお客さま全体のオーダーに影響が出かねません。
これがととら亭のメニューブックで、
『デザート以外のご注文は、なるべく最初にまとめてお願いします』
と一文を載せた理由なのです。

そして一番真似できないのが大規模レストラン。
週末にはよく4名以上のグループのお客さまがご来店されますが、
いつも僕は料理を取り分けで召し上がることをお勧めしています。

40歳未満の方にとってファミレスがレストランの原体験となっている昨今、
大勢で訪れてそれぞれが好きなものを注文しても、
ババンと全てがほぼ同時に出てくるのが当たり前になっていると思います。
ところがそれはキッチンスタッフが複数いて、
かつセントラルキッチンで調理された素材の、
最終調理まで詰めいるからこそできる技で、
手作りにこだわった料理人が一人でやっているようなキッチンでは、
逆立ちしても真似の出来ない芸当なのです。

時にはホテルに併設されたレストランのように、
レベルの高い手の込んだ料理を複数同時に提供しているケースもありますが、
あれもまたキッチンは完全に分業制となっており、
冷菜担当、ストーブ前、デザート担当など、
それぞれのエキスパートが連携して同時提供を可能にしているのです。

しかしながら、「どうしてもそれぞれが頼んだものを一緒に食べたい!」
と当店でなってしまった場合、
完全に同時は無理ですが、ひとつだけ方法があります。
それは頂いたご注文をすべて最終調理段階ぎりぎりまで進め、
一挙に仕上げるという究極の裏技。
僕がこれをお勧めしないのは、かなり長い時間、
このお客さまのテーブルにはひとつも料理が出なくなるからです。
状況にもよりますが、たぶん40分から1時間は、
飲み物だけでお待ち頂くことになるだろうと思います。

飲食店には選りすぐりの材料があり、プロの料理人がいる。
にもかかわらず、作れても作れないケースがある。

4回に渡ってご紹介しました、普通は言わない飲食店の裏事情。
例に挙げたのはととら亭のような小規模レストランですが、
皆さまが身近な飲食店をご利用される一助になれば幸いです。

えーじ
posted by ととら at 18:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月02日

作れても作れない料理 その3

「よく旅先で食べただけの料理を再現できますね!」

旅のメニューを召し上がっているお客さまから、
しばしばこんなお言葉を頂戴することがあります。

僕たちが現地で触れた感動を可能な限り正確に再現するのは、
確かに骨の折れる仕事です。
しかし、それ以上に難しいのが、
安定した品質でスピーディーに料理を提供するラインを作ること。
極論かもしれませんが、
これこそが家庭と飲食店の違いと言い切れるかもしれません。

計算された仕込みと周到に行われた準備。
客席からはまったく見えない地味な部分ですが、
これなくしてととら亭の料理がテーブルに並ぶことはないのです。
そしてこの段取りが、
ランチとディナーをきっぱり分けている理由でもあります。
そう・・・

「ランチタイムに旅の特集メニューを食べられませんか?」

こうしたご要望をよく頂くのですが、
これまた僕らの回答は「すみません・・・」。

ランチはお客さまの滞在時間が短いので、
ディナー以上に提供スピードが求められます。
まさか昼休みに来られたお客さまを、
料理が出るまで30分も待たせるわけにはいかないでしょう?
ですから調理手順も速度に合わせて最適化しているため、
作れる料理は自ずと限定されてしまうのです。

そしてその準備を夜12時過ぎまで店にいた人間が、
朝8時前に店に入って始めるので、(ブラックだなぁ・・・)
素材こそ冷蔵庫にあっても、
突然「ディナーメニューを作ってくれませんか?」と言われて、
「かしこまりました〜!」とはなりようがないのです。

もし、いつでも今のグレードの料理をすべて提供できるようにするとしたら、
僕らの労働時間は既にレッドゾーンを振り切っているので、
「雇わず雇われず」のととらポリシーを破って、
助っ人を呼ぶしかないでしょう。

そうなると人件費が価格に転嫁され、
メニューに載っている値段は、
いわゆる『野方価格』ではなくなってしまいます。
ま、『銀座価格』とまではならないでしょうけどね。

この辺、
いろいろとバランスを取るのが難しいところなんですよ。

to be continued...

えーじ
posted by ととら at 21:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記