2017年08月06日

作れても作れない料理 最終回

居酒屋、レストラン、回転寿司にラーメン屋・・・
飲食店と一口に言っても、その業態は実に様々なものがあります。
そしてその楽しみ方も店により、人により千差万別。
皆さんもその時の気分やニーズによって、
いろいろなお気に入りの店を使い分けているでしょう?

しかしこの使い分けは、考えてみると思いのほか複雑です。
たとえば注文の仕方ひとつをとっても、
「取りあえずビールと枝豆下さい!」で始まる気軽な居酒屋と、
食前酒を傾けながらじっくりメニューを読み込み、
「彼女は舌ヒラメのムニエルのコースを。
 私は前菜にホタテのムース、メインはカモのロースト。
 ワインは・・・」
と続けるレストランでは大分違います。
これを逆にすると実にチグハグなことが起こるのは説明不要でしょう。

あらためて考えてみると、
それぞれの業態に応じてそこには暗黙のルールがあり、
外食を利用する僕たちは無意識にそれを共有しているのです。

しかしそれはあくまで『暗黙』のものですから、
双方の『誤解』はゼロにはできません。

僕たちも飲食業界では一応プロの端くれですので、
ある程度のかけ違いは臨機応変に対応しています。
とはいえ、やはりギャップがあまりに大きいと、
例によって「すみません・・・」にならざるを得ないのが実情です。

たとえば、ととら亭がファーストフード店と思われた場合、
(年に2〜3回は今でもあります)
僕が気付いた時点で、
「温かいお料理は15分前後お時間がかかりますが、
 よろしいでしょうか?」
と店内の混雑状況に応じた待ち時間を説明します。

1年に1回くらいは食事の途中で「急いでください!」
と言われることもありますが、
こればかりはどうにもなりません。
なぜなら、ととら亭に限らず、
余力を残して料理を作っている飲食店はまずないからです。

つまり常にトップスピードで作っているため、
もっと早くと言われてもこれ以上急ぎようがないのです。
(生焼けでいいなら別ですけど・・・)

最後の手段は、他のお客さまのオーダーを全て中断し、
急いでいるお客さまを優先することですが、
これは僕たちのポリシーとしてやりませんし、
今後もやることはないでしょう。

もうひとつ厳しいのが居酒屋と思われた場合です。
確かにお酒もかなり揃えてはいるものの、
フードは根本的に違います。
業界外の方にはピンと来ないかもしれませんが、
居酒屋や寿司屋とレストランでは、
出し物の違いからオーダー後の製造工程が全く異なるため、
自ずと注文の仕方も違うのです。

たとえばもし寿司屋で席に着くなり、
「ビールに、イカとアジとしめ鯖とホタテとヒラメとタイとハマチ、
 えんがわとマグロの中トロ、最後に梅シソ巻きをお願いします」
なんて一気に注文したら板さんが怒りだすのはほぼ確実でしょう。

反対にととら亭のような、
一人もしくは少人数でやっているキッチンの場合、
居酒屋式の『取りあえずオーダー』に対応するのは難しいものがあります。
なぜなら、製造工程の多い料理を可能な限り美味しく提供するために、
オーダーを頂いた後の手順は調理器具の使用順序も含め、
かなり複雑になっているからです。

通常でも予約なしでお客さまがご来店され、
アラカルトのオーダーをされる場合、
新しいお客さまのご注文が入る度に、彼女は調理工程の段取りを組み直し、
常に全体の料理が最短時間で出るようにしています。
単純に入った順番で作っているのではないのですよ。

ですからこの調整が、
「取りあえずサラダとムール貝のカレークリーム煮」
次いで「ポタージュとムニエル」
ほどなくして「スペアリブとケバブライス」
という具合に追加オーダーが繰り返されると、
調整に取られる時間が増え、そのお客さまだけではなく、
店内にいらっしゃるお客さま全体のオーダーに影響が出かねません。
これがととら亭のメニューブックで、
『デザート以外のご注文は、なるべく最初にまとめてお願いします』
と一文を載せた理由なのです。

そして一番真似できないのが大規模レストラン。
週末にはよく4名以上のグループのお客さまがご来店されますが、
いつも僕は料理を取り分けで召し上がることをお勧めしています。

40歳未満の方にとってファミレスがレストランの原体験となっている昨今、
大勢で訪れてそれぞれが好きなものを注文しても、
ババンと全てがほぼ同時に出てくるのが当たり前になっていると思います。
ところがそれはキッチンスタッフが複数いて、
かつセントラルキッチンで調理された素材の、
最終調理まで詰めいるからこそできる技で、
手作りにこだわった料理人が一人でやっているようなキッチンでは、
逆立ちしても真似の出来ない芸当なのです。

時にはホテルに併設されたレストランのように、
レベルの高い手の込んだ料理を複数同時に提供しているケースもありますが、
あれもまたキッチンは完全に分業制となっており、
冷菜担当、ストーブ前、デザート担当など、
それぞれのエキスパートが連携して同時提供を可能にしているのです。

しかしながら、「どうしてもそれぞれが頼んだものを一緒に食べたい!」
と当店でなってしまった場合、
完全に同時は無理ですが、ひとつだけ方法があります。
それは頂いたご注文をすべて最終調理段階ぎりぎりまで進め、
一挙に仕上げるという究極の裏技。
僕がこれをお勧めしないのは、かなり長い時間、
このお客さまのテーブルにはひとつも料理が出なくなるからです。
状況にもよりますが、たぶん40分から1時間は、
飲み物だけでお待ち頂くことになるだろうと思います。

飲食店には選りすぐりの材料があり、プロの料理人がいる。
にもかかわらず、作れても作れないケースがある。

4回に渡ってご紹介しました、普通は言わない飲食店の裏事情。
例に挙げたのはととら亭のような小規模レストランですが、
皆さまが身近な飲食店をご利用される一助になれば幸いです。

えーじ
posted by ととら at 18:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記