2019年04月14日

第17回取材旅行番外編 その5

あいやぁ〜・・・これから何が始まるんだ?

突然現れた外国人を前に、顔を見合わせる病院職員。
ささっと鳩首会議を切り上げたかと思うと、
ひとりの女性がカウンターから出てきました。

彼女に導かれるまま入ったのは受付の反対側にあるオフィスです。
中には事務職の女性がひとり。
僕が同じ説明を繰り返すと今度は・・・

「分かりました。彼女と一緒に受付で手続きをして下さい」

やった!
ようやく話が通じたみたいだ。

僕はだいぶ熱が上がってきているのを感じていました。
ともこはもう目がうつろです。

む〜・・・
頭の回転がこれ以上落ちる前にドクターと話をしなくちゃ。
でも受付からやり直しなんだよな。

戻ったところでアテンドしてくれた女性が、

「トルコの・・・ホ、ホケン、ハイってマスか?」
「保険? いいえ。日本で旅行保険には入りましたけど」
「はい。では、ココで、さき、払います」

・・・?
診察料を前払いするってこと?
それから?

「なまえ、バースデート、お母さん名前、お父さん名前」
「え? 両親の名前?」
「はい」
「母はもう亡くなってますよ」
「はい。OK、OK、お母さん名前」

こりゃカルテの記入欄の必須事項なのかな?
まぁ、この際こまかいことはいいや。

僕らは訊かれるがままに答えつつ、
日本円にして約6千円相当のトルコリラを支払い、
領収証を持って再びアテンドの女性の後に続きました。
院内の表示は全てトルコ語です。
僕たちだけでは診察室に行けと言われても迷いに迷ったでしょう。

階段を昇って廊下を進んだ先に幾つかドアが並んでおり、
その前のベンチはどこも患者さんたちでいっぱい。
僕らに気付いたおばあちゃんたちが詰めて席を開けてくれました。
言葉は分かりませんが、
ともこを指差して「ここにおかけなさい」と言っているようです。
やさしいね。
まもなくアテンドの女性が僕らを呼びに来ました。

「こんにちは。どうしました?」

大きな机の向こうには40歳代中頃と思しき男性のドクターがひとり。
若干たどたどしい英語でしたが、意思疎通を図るには十分です。
僕は細かく状況の説明をしはじめました。

「なるほど、二人ともほぼ同じ症状なのですね。
 それではベッドに横になって下さい」
「ともこから診てもらおう。靴を脱いでベッドに横になって」

ドクターは聴診器を使いながら背中や腹部を触診して行きます。
見慣れた手法に僕は少し安心しました。

「OK、じゃ次は僕の番だ」

同じ手順で診察した後、

「それでは血液検査とレントゲン撮影をしましょう」

看護士さんがてきぱきと採血し、次はレントゲン室へ・・・
と思いきや、僕らは再び受付へ。
ここで検査費用の前払いとなりました。
保険に入っていないので、
何をするにも都度キャッシュ&デリバリー式なのですよ。
懐具合が心配でしたが、
今回も支払ったのは日本円にして約6千円程度。

次は地下に降りてレントゲン撮影です。
ここでも混んでいたわりにすぐ僕たちの番となりました。

どうも変だ。
これじゃ僕らを優先してやってくれているとしか思えない。
みんな待ってるのに、なんだか申し訳ないな。

僕は「彼らと同じように順番を待ちますよ」と言ったものの、
通じてないのか、アテンドの女性は微笑むばかり。
レントゲン技師はまったく英語を話さないので、
「ここ、立って」「息、止めて」という彼女の指示だけが頼りです。
彼女が甲斐甲斐しく世話をしてくれたお蔭で、
海外初のレントゲン撮影も無事終わり、
僕たちは1階のロビーに戻って来ました。

「検査結果はどれくらいで出ますか?」
「・・・?」
「あ〜、次はどうすればいいですか?」
「2時間マチます」
「2時間したらここへ来ればいいですか?」
「・・・?」
「あ〜、あなたは2時間後、ここにいますか?」
「ハイ」
「それでは2時間後にここで会いましょう。
 テシェッキュレデリム(どうもありがとう)」

「なんて言ってたの?」
「検査結果が出るまで2時間くらいかかるらしい。
 それまでどこかで休んでいよう。大丈夫かい?」
「うん。ちょっと寒いけど。えーじは?」
「頭痛と悪寒と咳と関節痛と軽い吐き気がある以外は元気さ。
 さぁ、ここはドアが開くたびに冷たい風が入って来る。
 もう少し暖かい2階へ行こう。
 さっきキオスクがあるのを見たんだ」

その店はちょっとした軽食も出しており、
小さなテーブル席が4つありました。
僕らは食欲がなかったので水だけ買い、一番端のテーブルへ。

さすがにミネラルウオーター1本で座ってちゃ悪いよな。
かと言ってこの体調じゃ何も食べられないし・・・
とりあえず一言ことわっておこう。

「すみませんが、あのテーブルでしばらく休んでいてもいいですか?
 昼休み後まで検査結果が出るのを待たなければならないのです」
「ああ、もちろん。好きなだけいていいですよ。
 具合が悪いのは奥さんですか?」

彼は流暢な英語で応えてきました。

「驚いた!
 ここで会った人の中で、あなたが一番上手に英語を話しますね!
 実は僕たち二人とも具合が悪くてここに来たのです」
「それはお気の毒に。なにか必要でしたら力になりますから、
 いつでも言って下さいね!」

親切な人だなぁ・・・

と好意に甘えつつも、さすがに2時間はねばれませんから、
1時間ほどで僕たちは診察室前のベンチへ移動。
時刻は12時。

やれやれ・・・
発症してからのタイムリミットを過ぎたか・・・

二人ともまだ動けはしますが、
朝に比べると明らかに症状は重くなってきています。
ともこときたら、もうほとんど口をききません。
10分、20分・・・
ベンチでたたじっとうずくまって待つ時間がとても長く感じられました。

それから何分経ったのでしょう。
熱で半分まどろんでいた僕がふと気付くと、
隣にいたともこの姿が見えません。
驚いて立ち上がった矢先に彼女が戻り、

「えーじ、昼休みが終わったみたいだよ。
 受付にもスタッフが戻って来たし」
「よし、行ってみよう!」

ロビーに降りるとアテンドの女性が待っていてくれました、
そのまま僕らは重い足取りで診察室へ行き、

「たぶん風邪ですね」
「本当に?」
「ええ、心配いりませんよ。これが血液検査の結果です。
 インフルエンザであれば白血球の数がもっと上がりますが、
 ほら、平常値ですからね」

ドクターは検査結果を広げて詳しく説明してくれました。

ふ〜、とりあえず一安心だな。

「解熱剤と咳止め、胃薬を処方しておきます。
 処方箋を持って薬局に行って下さい」
「薬局はこの病院内にあるのですか?」
「いいえ。ここにはないので街の薬局に行って下さい。
 処方した薬はどこでも売っているはずです」
「ありがとうございました」

さっきのキオスクに寄って、
お礼がてら昼食のシミット(トルコのプレッツェル)を買い、
僕らは振り出しのロビーに戻って来ました。
それに気付いた受付カウンターのスタッフたちが皆こちらを見ています。

「みなさんのお蔭でとても助かりました。
 どうもありがとう!」

言葉は分からなかったかもしれませんが、
僕たちの気持ちは伝わったような気がします。
ずっとアテンドしてくれた女性が奥で手を振っていました。

「みんなすごく親切だったね」
「ああ、病院のスタッフだけじゃなく患者さんたちもね」

凍える外に出た時、僕らの体調はもう最悪でしたけど、
心は反対にとても温かくハッピーでした。
突然現れた言葉もほとんど通じない外国人に、
ここまで親身になって接してくれるとは。

と、喜ぶのはまだ早い・・・んですよね。
僕は肝心の治療がまだ手付かずであることを思い出しました。

「よし、次は薬局を探さなくちゃ。
 取りあえずタクシーでホテルに帰ろう」

to be continued...

えーじ
posted by ととら at 17:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記