2019年04月19日

第17回取材旅行番外編 その6 最終回

「ともこは先に部屋へ帰って休んでて。
 僕は薬局で薬を手に入れてくるよ」

ホテルのロビーまで戻った僕らは、
ほぼ最後の気力を使い果たした状態でした。
しかしまだこのミッションが終わったわけではありません。
いや、むしろ治療という点では何も手が付いていないのです。

さぁ、ラストタスクだ。
まず薬局を探さなくちゃいけないんだけど、
英語が話せる彼女は・・・いないんだよね。

僕はフロントカウンターの中から心配そうな面持ちでこちらを見つめる、
朝番のおじさんと目が合いました。

「さっきはありがとうございました。
 病院へ行って来ましたよ。
 で、次は薬局に行かなければなりません」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ダメか。

「僕は 薬局(pharmacy)に 行きたいです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

え〜っと、何て言えばいいんだ?

トゥヴァレット ネレデ?

ちがう! それじゃ「トイレはどこですか?」だ!
む〜、ファーマシーはトルコ語で何て言うんだろ?
頭がぼ〜っとして意識を集中できない。

Think,Think,Think,Think....

あ、そうか!

僕は処方箋を取り出し、彼にそれを見せながら、

「ネレデ?(どこ?)」

すると彼は即座に窓の外を指差したではないですか。

え? このホテルの前?

またここからタクシーに乗って、
どこぞまで探しに行かなければならないと覚悟を決めていた僕は、
嬉しさのあまり彼をハグしたくなりました。

しかし喜び勇んで表に出た僕の目に飛び込んできたのは、
バケツや洗剤を並べた雑貨店とメガネ屋の2軒だけ。

はぁ・・・マジですか。
今度は誰に訊けばいいんだ?
ん〜・・・もしかしたら左の雑貨屋が薬も置いているかも。
んなわけないか。
と決めてかかってもしょうがない。
ダメもとで訊いてみよう。

「メルハバ(こんにちは)」

店に入った僕は初老のご主人に処方箋を見せながら、

「この薬はありますか?」

って英語は通じないよね。

しかしご主人は処方箋を手に取って内容を読むと、
トルコ語で何かを言いながら隣の店の方を指差しています。

え? そっちはメガネ屋じゃん。
はぁ・・・マジですか。
OK。分かったよ。
こうなったら行けと言われれば何処へだって行くぜ。

僕はメガネ屋に入って雑貨屋と同じアプローチを試みてみました。
すると右側のカウンターにいた若い男性は雑貨屋の方を指差しています。

あっちへ戻れ? おいおい、ここでループかい?

と天を仰ぎそうになりながら左側を見ると・・・

え? あれはまさか!

なんとこのメガネ屋の左側には、小さな薬局が併設されていたのです!

意味が通じていなかったわけじゃなかったのか。
ふぅ〜、やっとここまで来たぜ!

僕は薬局側のカウンターにいたお兄さんに処方箋を渡しました。
予想通りこの店の人たちは誰も英語を話しませんでしたけど、
トルコ語で書かれた処方箋があれば問題はありません。
お兄さんは薬の並ぶ棚から三つの小箱を取り出して僕の前に並べました。

彼も当然、僕がトルコ語を話さない外国人だと分かっています。
そこで彼はレジ横にあったパソコンのディスプレイを僕から見える角度に調整し、
ブラウザを立ち上げて、

ん? なるほど翻訳サイトか。

彼がトルコ語をタイプして変換すると英語になります。
ひとつの箱を僕の前に置き、

morning, after, breakfast, one
evening, after, dinner, one

表現はただの単語ですが、意味を汲むだけなら十分です。
僕が箱に書きとめるのを待って彼は次の箱を前に置きました。
同じように飲み方を説明し最後の箱が終わるとここだけ英語で、

「OK?」

料金は日本円にして全部で850円ほど。
思ったより大分安くて助かりました。
支払いが済んだ僕はやっと手に入れた薬の箱を手に出口へ。
というところで後ろから薬局のお兄さんの声が。
戻ってみればディスプレイに1行の英文が表示されています。
それは、

Get better soon.(すぐ良くなりますよ)

薬局のお兄さんと、
このやり取りをずっと見ていたメガネ屋のスタッフの笑顔に見送られて、
僕は店を出ました。

よし、ゴールは目の前だ!

「ただいま」
「あ、えーじ? 大丈夫?」

ともこはベッドの中で丸くなっていました。

「薬を手に入れたよ。
 おっと、その前にさっき病院で買ったシミットを食べよう。
 食堂でチャイをもらって来るよ」

時刻はもう14時半。
朝からほとんど飲まず食わずだったお腹に熱いチャイが沁みます。
この時食べたシミットの美味しいことといったら・・・

「さぁ、薬を飲もう。時間は中途半端だけど問題ない。
 いまなら解熱剤と咳止め、胃薬をそれぞれ1錠ずつだ」

はぁ〜・・・なんともまぁ長い一日だったな。

暖かいベッドに入って体を伸ばした僕は、
横になることの有り難さを全身で感じました。
と同時に記憶がなくなり、気が付けば部屋は真っ暗です。

ん? 何時だ? 腕時計は?

「えーじ、起きたの? いま何時?」
「もうすぐ19時だよ。ぐっすり眠っちゃったな。具合は?」
「ん〜・・・なんかすっきりした感じ」

僕も日中の症状が嘘のように体が軽くなっています。
そこで熱を測ってみると、ともこは36.4度。
僕も平熱に戻っているじゃないですか!

「治った〜!」
「食欲は?」
「お腹空いた! もうなんでも食べられるよ。
 それにしてもよくすぐ薬局が見つかったね。
 病院で待ってた時はどうなるかと思っちゃった」

ともこが喋り続けています。
ということは元気になったということでしょう。
こうして何とか元のレールに戻った僕らは、
トルコでの取材を再開したのでした。

End

えーじ

P.S.
それにしてもあの薬。
1回飲んだだけであんなに効くとは・・・
きっと日本ではまず認可されない、過激なシロモノだったんでしょうね。
posted by ととら at 14:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記