2020年05月16日

災い転じて名作を生む

休業期間中は料理の試作がさくさく進み、
めずらしく、ともこも続けてブログを書いていましたね。
ところがいざ営業が始まってしまうと、

「えーじ、書いといて!」

てなわけで、再び僕が料理ネタも担当することになりました。
今回はロシアやチェコなどスラブ圏で有名な、
はちみつケーキのメドヴニーク(Medvnik)です。

cz_medvnik.jpg
試作(スクェアのワンホール。これをカットしてサーブします)

cz_medvnik02.jpg
僕たちがプラハで食べたオリジナル

lt_medvnik.jpg
これはラトヴィアのリガで食べたもの

美味しそうでしょ?

このほっぺが落ちるレイヤードケーキ、
いまでこそヨーロッパではポピュラーな存在ですが、
生れはなんと、
19世紀初頭の第10代ロマノフ王朝アレクサンドル1世の宮廷だとか。

しかも、その誕生秘話がおもしろい。

ある日、新人の菓子職人が宮廷の厨房に雇われました。
彼にとってはハレの舞台です。

「よし、腕によりをかけて傑作を作るぞ!」

そう意気込んだ彼が、
皇后エリザヴェータ・アレクセーエヴナに献上したのは、
はちみつ入りの薄いスポンジにスメタナ(生クリーム)を塗り、
それを何層も重ねた豪華なケーキ。

その手の込みようにいたく感心した厨司長は、
これなら気難しい皇后も気に入るだろうと太鼓判を押しました。
そして運ばれて行くケーキを見送った後、

「君、あのように複雑なケーキは初めて見たぞ。
 いったいどんなレシピで作ったんだ?」
 
菓子職人は意気揚々と、
 
「はい、まずはちみつを入れた生地で薄いスポンジを焼き・・・」

そう説明を始めるやいなや、

「なんだと〜っ!」

料理長の顔色がみるみる真っ青に変わりました。

「いま、なんと言った?」
「は、はい・・・
 まず、はちみつを入れた生地で・・・」
「大変だ! ケーキのワゴンを追いかけろ!」

厨司長は菓子職人の説明を遮り、
キッチンから飛び出して行きました。
そのあとに菓子職人が続き、

「ど、どうしたんです?」
「ばか者! エリザヴェータ様は、はちみつが大嫌いなんだ!
 だから厨房では、
 どんな料理でもはちみつを使わないよう徹底していたんだぞ!」
「そんな・・知りませんでした」
「言い訳はどうでもいい、とにかくあのケーキを止めるんだ!
 さもないと・・・」

広い宮廷内を疾走して息も絶え絶えになった二人が皇后の居室に飛び込んだ時、
彼らの目に入ったのは、
まさしくエリザヴェータがケーキを口に運んだ瞬間でした。

(BGM: バッハ フーガ ト短調)
(照明:暗転 → スポット:厨司長)

お、終わった・・・
これでわれわれはハローワーク行きか、
最悪はシベリア送りだ。

エリザヴェータは突然の闖入者に一瞬驚きましたが、
すぐ威厳を取り戻し、

「厨司長、その若者が新しい菓子職人ですか?」

彼女の冷たい声が広い居室に響きました。

「は・・・はい。この度は、とんだご無礼を・・・」

言葉に詰まった厨司長を横目に、
彼女はもうひときれケーキを口に運び、
満足そうに飲み下してから、

「いい腕をしていますね。
 こんなに美味しいケーキは初めて食べました。
 明日もまた同じものを持ってくるように」

こうして厨房のうっかりから生まれたケーキは、
その材料を隠す必要もなくなり、
ロシア語のはちみつを意味するмед(メド)を冠し、
Медовик(メドヴィク)と呼ばれるようになったそうな。

めでたし、めでたし・・・

P.S.
ちなみに今回再現したのはプラハで食べたタイプ。
名前に”n”が入ってメドヴニーク(Medvnik)となり、
クリームもキャラメルクリームなので、
味わいは、はちみつというよりキャラメルケーキですね。

えーじ
posted by ととら at 21:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記