2021年01月19日

Think together case1

3回前のブログ『プロ意識のその下に』を書いていて、
「ちと誤解を招くかもなぁ・・・」と思っていたことがありました。

それは二元論の罠。

これはもの凄く根深い問題なので僕も日常的に気を付けていますが、
つい何か好ましくないことが起こると反射的に、

「あんたが悪い!」

そう思ってしまう。

もうちょっと詳しく言うと、
ものごとをすべからく二項対立の概念で捉えるヤバイ癖のことなんですよ。
たとえば『善・悪』、『正・邪』、『優・劣』などなど。

で、この次が問題なんですが、
僕がさきに『反射的に』といったとおり、
「なんじゃこりゃ?」となった途端、
本人は自分が正しい側に立っていて、
同時に相手を間違っている側に立たせている。

このメタレベルの出発点は本能的といってもいいほど、
本人には透明化されていて気付くのが難しい。

「あ〜、今月も売り上げが悪い・・・
 コロナのせいだ! 政治家が悪い! お客さんも悪い!」

ってな具合にね。

でも、ことはそんなに単純な話じゃありませんよね?

ここで『プロ意識のその下に』に戻って、
僕の話だけを聞いていると、

『困ったちゃん』= 悪い人、間違っている。
『医療関係者』 = いい人、正しい。

そう思いませんでした?
ですよね?

じゃ、話が複雑になるので、あの時は省いた部分をお話しますと・・・

救急搬送されてきた『困ったちゃん』、
ここではS氏といい換えましょう。

手術で麻酔が効いていたときは何の問題もなかったのですが、
痛みや不快感を感じ始めるや否や、
ほとんど15分おきのナースコール攻撃を開始しただけではなく、
病室中に響き渡るノンストップの独り言DJに変身したのです!

しかもその内容はエンタメ系とは無縁の嫌悪感を催すことばかり。
さらに食事中でも「すんませ〜ん、うんこ行きたくなりました!」
関節が痛むと嘆いてはもらったサリチル酸系軟膏を塗りまくり、
強烈なメンソール系の臭いが充満した病室は、
ほとんど体育会系の部室!(う〜、食事ができん!)

うひゃ〜、スゴイねこりゃ、どんな人だろう?
とカーテンの隙間から覗いてみれば、年齢は50歳前後。

子供じゃない。
しかしその傍若無人のふるまいからは、
S氏は他者の存在をまったく認識していないとしか思えない。

僕は日中、ほとんど談話室に行っていましたし、
ベッドに帰ればヘッドフォンで音楽を聴いていたので、
それほど苦痛を感じませんでしたが、
困ったのは医療関係者と他の患者さんたち。

なかには最大で4人の寝たきり状態の方がいましたから、
病室は忍耐力の耐久テストルームと化してしまったのです。

ほどなくして、隣のベッドからは、
「こいつ、ぶっ殺してやろうか・・・」という声が聞こえたり、
テレビをタダで見たい、髭剃りを買ってきてほしい、
繁忙時に『うんこが出きらないのでもう一回トイレに行きたい』
攻撃を連打された看護師さんが声を荒げてしまったり、
(よくあそこまで耐えていたと思いますが・・・)
病室のムードは病院とは思えない、一種異様なものになってきました。

そしてついにある晩、

「うるせぇんだてめぇ!黙ってろ!」

と怒声が爆発し、

「あのさぁ、みんな我慢してんだよ。
 いい加減にやめてくれないかな、もう!」

との叫びが追従する緊急事態に発展してしまったのです。
キレたのは皆さん、普段は温厚な方ばかり。

さすがにここまでくると僕も傍観者ではいられなくなり、
「ナースセンターで相談してきますから、ちょっと待っていてください」

そうして結果的にS氏は個室に移され、病室には平和が訪れたのでした。
めでたし、めでたし・・・

で終わると、
まさしくS氏は他人の迷惑を顧みない『ひどい人』ですよね?
でしょ?
でも次を続けるとどうなります?

S氏は知的障害と聴覚障害を持ち、
家族とも離れ、ひとりで生活保護を受けながら生活していたのです。

怪我で救急搬送されるのは健常者でも大変なことです。
各種手続きや入院時の日用品の手配など、
なかなか思うようにはいかないでしょう。
それを3重のハンディキャップを抱えた彼は、
ひとりでどうにかしようと奮闘していたのです。
とうぜん、その手段も結果も、僕らがやるようにはいきません。

S氏が個室に移された後、看護師長さんが談話室に現れ、

「久保さん、すみません。
 たいへんご迷惑をおかけしました」

と頭を下げてきました。

「いや、これは誰かが誰かに謝ることではないんですよ。
 たしかに関係者全員が大変でしたけど、
 特定の誰かが悪いわけじゃない」

僕はこのエンディングがベストだったとは思っていませんでした。
結果的に病室は平常に戻りましたが、
コストのかかる個室を差額なしで提供するババを病院側が引くという、
代償を伴った結果だったからです。

民営の病院では医療行為もまたすべからくビジネスであり、
サービスと対価の比率が崩れれば経営が危うくなってしまいます。
また、病室側には平和が訪れたものの、
S氏はまだ入院していたので、
医療関係者は引き続きナースコール攻撃に晒されていたでしょう。

ではS氏を強制退院させればいいのか?
そうすれば患者さんも医療関係者もハッピーかもしれません。

しかし生活保護を受けている知的障碍者から、
医療のチャンスを奪ってもいいのか?
言い換えれば、社会的弱者は淘汰されてしかるべきなのか?

もっというと、
僕がS氏ではなく、S氏が僕ではなかったのが、
本人の意思が及ばない、持って生まれた運命だとすると、
もし僕が彼だったら、僕はどうすればいいのか?

そう、僕がここで一緒に考えてほしいのは、
あなたをイライラさせる『困ったちゃん』は、
ハリウッド映画に出てくる分かりやすい純粋な悪の権化ではなく、
僕らと少しも変わらない、同じ人間だということです。

ただ、置かれた境遇で、それぞれのスキルの範囲で、
自分の人生に取り組んでいるだけ。
しかし、その結果と他者に及ぼす影響が理解できないこともある。

退院するとき、僕は病院にメモを残しました。
この件は、誰かが悪いという問題ではない。
残念ながら僕には具体的な解決策が出せませんけど、
確かなのは、S氏が肉体的にも、精神的にも、経済的にも、
助けを必要としているということ。

Think together.

あなたがもし、
医療関係者だったら、患者さんだったら、僕だったら、
そしてS氏だったら・・・
どうしたらいいと思います?

僕は今でもその答えが見つからないでいるのですよ。

えーじ
posted by ととら at 15:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記