新橋にある会社に勤めていました。
そこを退職したある春の夜、
レンガ通りにある床屋へ寄り、さっぱりしたところで、
「気持ちのいい夜だな。
最後の晩だ、家まで歩いて帰るのも悪くない」
そうして皇居を反時計回りに進み、
白山通りを北上して帰ったのです。
あれから20年。
昨日は10年間住んだ野方のアパートの引き渡し。
不動産屋さんと待ち合わせた正午に行くと、
何もない部屋はどこか神妙な面持ちで僕を待っていました。
ととら亭のあった物件もそうでしたが、
鍵を返す時の気持ちは、なんとも言えないものがあります。
そうだな、これもまた街と同じように、
ただ一言、
ありがとね。
そう心の中で呟いて表に出たのです。
そしてその後、
長らくお世話になった美容室でさっぱり。
これもまた僕の儀式なんですよ。
さすがに柴又までは歩いて帰りませんでしたが、
身も心もすっきりして旅立ったのは同じ。
この宿も、この街も、いいところだったな。
ほんと、来て良かったよ。
西武新宿線の車窓から眺める見慣れた風景。
前から後ろへ、現在から過去へ流れて行く世界。
人生とは、旅そのものだと肌で感じながら、
柴又の家へ帰った僕でした。

Thanks Room 201!
えーじ