「当店には競合がないので大丈夫です!」
これは移転に伴う融資の件で、
銀行に行ったときの僕の言葉。
公務員や会社員の方にはピンと来ないかもしれませんが、
個人事業主というのは社会的に信用がありません。
加えて10年以上の経営実績があっても、
野方から柴又への移転となれば、
固定客数は完全にリセット状態。
融資担当者が慎重になるのも無理からぬ話なのです。
そこで先方を安心させるために、
僕は旅の食堂というビジネスの「優位性」を説明したのでした。
え? ずいぶん大きく出たもんだ?
いや、これは十八番のはったりじゃありません。
本当にライバルがいないんですよ、ととら亭には。
なぜか?
儲からないからです。
そのわりに大変だからです。
つまり労働対効果がやたらと低い。
おいしい仕事は追従者が増えますけど、
その逆を真似する経済マゾヒストがどこにいます?
だからライバルなんて、頼んでも出てこないんですよ。
(もちろんこれは銀行で言いませんでしたが)
ではなぜ儲からないかと申しますと、
ビジネスをミニマムにチューニングしているからです。
住宅地型の商店街で非日常型のレストランをやる場合、
集客数のギャップはオフィス街などに比べて、
とてつもなく大きくなります。
たとえば先の週末の場合、
土曜日 → ランチがらがら → ディナー満席
日曜日 → ランチ満席 → ディナーとほほ・・・
ここで教科書的な経営者なら満席状態に規模を拡大し、
「すみません、ただいま満席でして・・・」を避けるでしょう。
稼げるときに稼いでおくのはビジネスの鉄則ですからね。
しかし規模を拡大すれば人件費などの固定費が上がり、
新型コロナショックのような急激な変化が起きると、
持ちこたえられなくなってしまいます。
ところがととら亭の場合、
がらがら&とほほにチューニングしているので、
従業員さんのいる中規模以上の店が景気良く稼いでいる時に、
や〜、うちも儲かった! とは残念ながらなりません。
反面、売り上げが悪くてもダメージは少なく、
ま、こんな日だってあるさ、と気分を変えてお風呂に入っちゃう。
大変さについては、
経費を節約するために可能な限り外注を避けているのに加え、
そもそも旅の食堂は頻繁にメニュー替えがあるため、
少なくとも4半期ごとに新しい料理をマスターしなければなりません。
そうなると労働時間が爆発的に増えるだけではなく、
精神的なプレッシャーも上がるので、
それこそ好きでなければできなくなるのです。
これがととら亭というビジネス。
誰も真似することが出来ないものではなく、
真似する気にはなれないお仕事なのでございました。
えーじ