僕らは今、取材の北ルートで最初の街、
ミチョアカン州のモレリアに滞在しています。
ここもまた15年前に訪れた場所のひとつ。
その懐かしい話は次回に譲るとして、
今日は「
その6」で触れたローカルタウン、
パパントラをビジュアルにご案内しましょう。

ベラクルス発のバスはすぐ郊外に出て、
景色は岩山とサボテンのメキシコ高地とはまったく異なる、
深い緑とヤシの木に変わりました。気候は亜熱帯。

北西に向かって100キロメートほど走ったあたりから、
進行方向右側(東方向)にメキシコ湾の海が広がります。
ほんと、この国は自然の多様性に富んでいるのですね。
更に文化的にも60以上の民族がいるとなれば、
料理もまた地域差が大きいというのも頷けるじゃないですか。

パパントラは30キロメートルほど内陸部に入った小さな街で、
メキシコ高地に続く斜面に位置しています。
いわゆる坂道の街ですね。
雑然とした感じから、ちょっとボリビアのラパスを思い出しました。
これで1等バスターミナルですよ。
駐車場が道路と反対側なので、知らないと見落としてしまいそう。
ちょうど待合室が工事中だったこともあって売店もなく、
ターミナルというよりバス停に近い風情。
ちなみに2等バスターミナルは・・・ちょっとしたカオスでした。

投宿したのはバスターミナルにほど近い、こんなホテル。
内容はよくある安宿ですが、
宿泊施設があまりないので競争原理が働かず、
値段はちょっと不相応だったかな?
といっても日本円で6,500円くらいですけどね。

たとえば修繕という発想がないので、カーテンなんかこの通り。
(写真からはわかりませんがカビだらけ)
これまたよくある価値観で、
カーテンが使えるか、使えないか、ではなく、
カーテンがあればいい、というわけです。
そのほかの部分がどうだったかは・・・
ご想像にお任せしますね。

街の中心は他と同じくソカロ(広場)。
坂の中腹にある一辺が50メートル程度の小さな公園ですが、
昼夜を問わず、人と自動車でごった返しています。
左側に並んでいるのは靴磨きの屋台。

ここは市民の憩いの場所なんでしょうね。
夜になると家族連れや若い恋人たちでさらに賑やかに。
そんな人々に交じって彼らを観察していると、
国や文化や人種が違っても、
人間というのは同じなんだなぁ、としみじみ思います。
そう、人は人が好きなんですよ。

僕らが到着した翌日は、
ちょうど郷土料理のタマレスとアトーレのフェスティバルが開かれていました。
タマレスとはトウモロコシの粉で硬めの生地を作り、
それに何らかの具を入れてバナナやトウモロコシの葉で包んで蒸したもの。
バスターミナルの屋台からレストランまで、
タコスと同じく、どこでも食べられるメキシコのソウルフードです。
ととら亭ではキャセロール焼きにした、
ギソ・デ・タマレスを紹介したことがありましたね。
アトーレは同じくトウモロコシの粉で作った重湯風の飲み物。
朝食の定番です。

それぞれのブースで自慢のタマレスやアトーレが売られ、
子供たちのブラスバンドの演奏と司会のマシンガントークで、
それはそれはすんごい盛り上がり!
僕らもひとつモーレ入りのタマレスを買って試食。
ん〜・・・マイス(トウモロコシ)の素朴な味を楽しむなら、
やっぱりトルティージャよりタマレスですね。
ピリ辛のモーレがアクセントになってとってもおいしい。
これは日本でいうとおにぎりなのかしらん?
そういえばマレーシアのナシルマもこれに近い発想でしたね。

このフェスティバルは有名なのか、
ローカルメディアが複数取材に来ていました。
例によって目立っていた僕らは何度かインタビューを受けましたが、
僕のスパニッシュじゃまともな話にならないので、
「僕、日本人です!タマレスおいしい!
メキシコの料理大好き!メキシコばんざ〜い!」
こんな受け答えしかできませんでした。(トホホ)
とまれ、こちらも取材する側ですので、
「一枚いいですか?」のカメラマンに、僕からも「一枚いいですか?」

なるほどよく知られているのですね。
メキシコ人の観光客も来ていました。
僕らがローカルと話していたら、
少年たちがちらちら物珍しそうに見ながら通り過ぎ、
こっちから「Hola!」と声をかければ、戻って来るなり質問攻めに。
さらにお願いがあるというので聞いてみれば、
日本語で何かメッセージを書いてほしいとのこと。
そこで先のインタビューの回答とほぼ同じ内容を、
漢字、ひらがな、カタカナを交えて書いて渡しました。
彼らは何でもプエブラから来たそうな。

夕食はソカロに面したこんなローカル食堂で。
こういう店は常連さんが沢山いて、
みなさんお気に入りのマイテーブルに付くと、
ホールスタッフは何も聞かずに「いつもの」を出してきます。
そして間もなく始まるお客さん同士のよもやま話。
もちろん何を言っているのかわかりませんけど、
こういう雰囲気が僕らは大好きです。

で、お仕事も忘れちゃいませんよ。
外国人をほとんど見かけないローカルタウンの料理はどんなものか?
一般的なものを試してみましたが、
どれも素朴な味わいでおいしかったです。
これはスープタイプのアルボンディガス。
やさしい味のミートボールです。

続いてポージョ(チキン)のアドボです。
アドボとはスペイン語の「漬け込む」から生まれたスペイン発祥の料理で、
ととら亭でもペルーバージョンを紹介したことがありますけど、
メキシコではプエブラ版、パパントラ版ともに、
御覧のとおりモーレで煮込んだものになっていました。
おもしろいのは、こうした料理を頼むと、どこの肉の部位か聞かれること。
たとえばチキンなら「ムネ肉とモモのどちらにします?」って具合に。
ここのアドボはモーレでも甘味がまったくなく、
辛味と苦みが効いた大人の味でした。ん〜・・・ディープだなぁ。

メキシコシティへの移動日は朝イチでエル・タヒン遺跡へ。
ここもまたメキシコの文化的多様性を知るにはお誂え向きの場所で、
アステカ文明以前にトトナカ文明の拠点として建設された建造物は、
メキシコシティのテオティワカンやオアハカで訪れた、
サポテカ文明のモンテ・アルバンとも異なる様式。
なんでもマヤ文明の影響も強く受けているそうな。
なるほどチチェン・イッツァのピラミッドと、
似ている部分があると思いません?

なぁ〜んて見入っていたら、遺跡警備の警察官の方が話しかけてきて、
ん? 写真を撮ってあげましょうか? ではないらしく、
自分のスマホを僕に渡してきたのですよ。
どうやら、「本官は外国人の来場者が来た場合、
職務(?)として一緒に記念撮影をすることになっております」
と言っているような・・・
そこで彼のスマホを向けると、いきなりまじめな表情になって、
要人と接するように、軽くお辞儀をしつつ、
ともこと握手をし始めたじゃないですか!
そこを横から撮って見せれば「うんうん、ムイビエン!」とな!
ただ歩いているだけで、こんなサプライズが次々とやって来る。
これが外国人観光客スレしていない、ローカルタウンのおもしろさなんですよ。
ん〜・・・いいですね。
これらの他にも、
買ったばかり温かいカモテ(サツマイモの煮たもの)をくれたタクシードライバーや、
片言の英語で他の人との通訳をしてくれたサポテカ人のおじさんなど、
たった2日間にもかかわらず、いろいろな人々との出会いがありました。
時間があればもっと長く滞在して、深くお付き合いしてみたいと思いつつも、
後ろ髪引かれながら移動した僕らなのでございます。
to be continued...
えーじ

ソカロに面したローカル食堂で