2015年09月25日

カツレツの旅

先日からアンコールで始めたブルガリアのカツレツ、シュニッツェア。
あらためてキャプションを書いていて、その複雑な「旅」に驚きました。

 → http://totora.jp/info/infomation.htm

昨年の春、ブルガリア料理特集のキャプションで、
僕はこの料理のオリジナルはドイツのシュニッツェルと書きましたが、
どうも北イタリアのミラノ風カツレツが元祖のようですね。

ジャマイカ料理のエスコヴィッチのキャプションでお話しましたように、
僕は料理の伝播ルートを、主に名前で遡及する手法を使って探しています。
例えばこの例でいうと、

ジャマイカ = エスコヴィッチ(Escovitch) → 語音のみ
 ↑
スペイン = エスカベェッシュ(Escabeche) → 語音のみ
 ↑
北アフリカ(ムーア人) = アル シクバ(al-sikbaj) → 語音のみ
 ↑
アラブ人 = アル シクバ(al-sikbaj) → 語音のみ
 ↑
ペルシャ人 = シクバ(sikba) → 語音と意味(sik=酢 ba=食べ物)

アルシクバがどうしてスペイン人の耳にエスカベッシュと聞こえたのか、
直接ムーア人の発音を聞いてみないと分かりませんが、
中継地では語音のみが、おそらくヒアリングエラーから転訛しつつ伝わり、
オリジナルでは単語を音素に分解すると、それぞれが個別の意味と結び付く。
これが第一仮説。

で、シュニッツェアですよ。

ブルガリア = シュニッツェア(Шнuцеа) → 語音のみ
 ↑
ドイツ+オーストリア =シュニッツェル(Schnitzel) →????

と思っていたのですが、これは早計でした。

語音で追いかけると、どうやら3つの系統で伝播した可能性があります。

まず、一番馴染みのあるカツレツから遡及しましょう。

<<ルート1>>
日本 = カツレツ →語音のみ
 ↑
フランス = コートレット(cotelette) →語音のみ(?)
 ↑
イタリア = コトレッタ アラ ミラネーゼ(Cotoletta alla milanese)

このルートはポーランドやロシアにも伸びており、

ロシア = コトレータ(котлета) →語音のみ

ポーランド = コトレット(Kotlet) →語音のみ

ちなみにCotolettaの語源は不明で、
荒っぽく分解するとcotto(調理済の)+letto(ベッド)となり、
形がマットレスみたいだから、そう呼ばれたのか?
これはこじつけっぽいかな?
今度イタリア語の先生か来たら訊いてみよう。

次が<<ルート2>>
中南米 = ミラネーザ(Milanesa) →語音のみ
 ↑
イタリア = コトレッタ アラ ミラネーゼ(Cotoletta alla milanese)

この系統では肉がチキンに変わります。

そして問題の<<ルート3>>

オーストリア+ドイツ = シュニッツェル(Schnitzel)
 ↑
イタリア = コトレッタ アラ ミラネーゼ(Cotoletta alla milanese)

大体、語音に共通性が全くない場合の理由は二つ考えられます。

一つ目は、食文化は共有できても、民族的に反目している場合。
一例をあげると、トルコ料理のドネルケバブが挙げられます。
この料理、トルコのみならず、
アラビア半島から北アフリカのアラブ圏でも非常にポピュラーなのですが、
オスマントルコに征服された時代の怨恨からか、
トルコ語で呼ぶことはままならず、シュワルマと語音が全く異なる名前になっています。
これは同じくトルコと反目しているアルメニアでもそうでした。

もうひとつが、個別の起源を持つ場合。
僕はシュニッツェルがこれに当ると考えていたのですよ。
しかし、Schnitzelの語源的な意味って何だろう?
辞書で調べてもSchnitzel=カツレツとしかなっていないし・・・

そう首をかしげている時に、タイミングよく表れたのが、
ドイツ人のお客さまのB夫人。
早速、僕の疑問を説明してみました。
すると・・・

schnitzel という名詞の古語は sintzel で、「木の薄い小片」や「紙の小片」を表し、
そこから「切った肉片」の意味にもなるとのこと。
また、動詞は schnitzen となり、これは木などを「彫る」ことを意味します。

なるほど。
この辺から「薄い肉の小片」というイメージが浮かんでくるのかもしれません。

面白いのは、ドイツではシュニッツェルとは別にコトレット(Kotlett)も存在すること。

これは基本的に料理方法ではなく、厚みのある「骨付き肉」を意味し、
料理方法はパン粉を付けて焼いたシュニッツェルバージョンは稀で、
(カツレツのようにたっぷりの油で揚げないと中まで火が通りませんからね。)
ポークチョップのようなソテーやグリルになります。

そう言えばポーランドで食べたコトレット(Kotlet)は、
日本でいうところのメンチカツレツでした。

ん〜・・・たかがカツレツ、されどカツレツ。
何ともディープな料理だと思いませんか?

ありふれた身近な料理でも遡ると、
それは国境と時代を横断し、僕たちをひとつに結び付けているのですよね。

えーじ
posted by ととら at 16:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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