2016年07月21日

食の原体験 その3(家系ラーメン)

今週の定休日の前夜。

「お疲れ〜!」
「連休は思ったより忙しかったね。」
「いやぁ〜、くたくただよ。お腹すいた。」
「これから用意すると時間がかかるから、外で食べようか?」
「それがいい。何処にする?」
「さっと食べて帰れるところがいいなぁ。」
「じゃ、久し振りにのがほさん?」
「さんせ〜!」

僕らの食の好みをご存知の方には意外かもしれませんが、
国内で外食と言うと、チョイスするのは、
ラーメン、回転すし、焼肉が上位でして。

こうした料理は、仕事がら作ろうと思えば殆ど作れますが、
手間を考えると断然外食の方が楽。

しかし、いざ野方ホープさんに入ると・・・

「いらっしゃいませ!」(いつも元気がいいのですよね)
「こんばんは〜。
 僕は味玉ラーメン。油少な目で味薄め。」
「私は野菜ラーメン。油抜きでお願いします。」

とまぁ、若いお客さんから、
「油こてこて、味濃い目!」なんて注文が飛び交う中、
なんとも情けない話。

しかし、この家系ラーメン、
実は遡ること30年以上前からファンなのですよ。
しかもその始まりは、元祖の吉村家さん。

あれは僕がハイティーンの頃。

「えーじ、腹減ったな!」

日払いで貰ったバイト代を元町のカフェバーで散財し、
明け方近く、僕は財布を覗いていました。

「何か食べに行こうか。
 でも、残りは千円もないぜ。
 よしぎゅー(吉野家さん)で並盛かな。」

するとバイク仲間のマーちゃんがしたり顔で、

「オレ、美味いラーメン屋を見つけたんだ。」
「この時間にやってるの?」
「ああ、そのかわり昼過ぎには閉まっちゃうのさ。」
「へぇ〜、じゃ行ってみよう!」

悪ガキどもはそれぞれ原付バイクに跨り、
一路、横浜の新杉田を抜けるトラック街道へ。

「おい、マーちゃん!そっちは何もないぜ!」

磯子警察署の交差点で左折しようとウィンカーを点けた彼に僕が言いました。

「いや、こっちでいいんだ!」

京浜東北線と並走する南部市場へと続くトラック街道。
倉庫の他、ドカジャン等の工事服を売る店がぽつぽつあるだけです。
しかし間もなく新杉田駅という所で、
明かりの点いているプレハブの建物が見えてきました。
店の前にはトラックやタクシーが沢山停まっています。

「ここだ!」
「へぇ〜、こんな店があったのか。」
「おい、ここのオヤジはおっかねぇから気を付けろよ!」
「・・・?」

店内は二つの調理ブースがあり、
その周りにコの字型のカウンター席が囲んでいます。
僕たちは丁度空いた席に座りました。
メニューはラーメンしかありません。

「ラーメンふたつ!」

僕は店内に入るなり、かつて経験したことのない、
独特なムードに圧倒されていました。
いかついトラック運転手、疲れ顔のタクシードライバー、
男性の一人客だけが早朝のラーメン屋で、
肩を寄せ合いながら黙々とラーメンを食べています。
誰も一言も喋りません。
ただ一人の例外を除いて・・・

「すんませんね、今日は!
 若いのに麺を茹でさせてますんで、
 あたしがやるようにはいかないかもしれませんが、
 まぁ、ひとつ大目に見てやって下さい!」

カウンターの中を行きつ戻りつしながら、
手ぬぐい鉢巻のおっさんが誰にともなく大きな声で喋っています。
それが吉村屋のおっちゃんとの出逢いでした。

「マーちゃん、なんだい、このオヤジ?」
「しっ!聞こえるぞ!」

彼の叱責の意味を悟るのにそれほど時間はかかりませんでした。
その数分後・・・

「ぶわっきゃろいっっっ!」

僕は目の前で発せられたその大声と、
それに続く「ばちん!」という音でストゥールから落ちそうになったのです。
顔を上げると、1m先で麺を茹でていたお兄さんが頭を押さえていました。

「てめぇ、何度教えたら分かるんだっ!貸してみろっ!」

オヤジはお兄さんから麺を茹でる網をもぎ取り、

「いいかぁ〜、湯を切るってのはなぁ、こうやるんだっ!」

彼はショートストロークで茹で網を振り下げ、
微妙なスナップを加えることで、茹で湯をきっちり切って見せたのです。

ここまでの出来事だけでもハイティーンの僕には仰天ものでしたが、
目の前に置かれたラーメンには更に驚きました。

当時、横浜でラーメンと言えば、
澄んであっさりしたスープ、細い麺、
具はナルト、シナチク、チャーシューの3点セットで決まりだったのが、
そのラーメンは油が表面に浮き、スープは濁り、
麺は見たこともない太麺じゃないですか。
具もナルト、シナチクの替りに、
ノリと湯掻いたホウレンソウが乗っています。

なんだこりゃ?

横を見るとマーちゃんは美味そうに食べ始めています。
そこで僕はまずスープを一口。

な、なんだこりゃ!?

それはもう驚きの連続でした。
今まで知っていたどんなスープとも違うコクと風味。
そして麺は歯応えがあり、個性的なスープと絶妙に絡みます。

「う、美味いな!」
「だろう?」

マーちゃんが片方の眉毛を上げて笑っています。
それから僕たちは、遊び疲れて早朝に腹が減ると、
吉村屋を目指すようになったのでした。

あ、ちなみに、僕の目の前で頭をはたかれたお兄さん。
僕らが店を出る時に、

「ありがとうございやしたぁっ!」

彼は店の入り口で水の張ったバケツを前に、
手ぬぐいを麺に見立てて湯を切る練習をしていました。

その後、彼は、本牧にある僕の自宅のすぐ近くで、
本牧家という吉村屋直系のラーメン屋を開業したのです。

えーじ
posted by ととら at 13:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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