2017年08月13日

ちょっとおせっかい

今から9年前に作ったととら亭の事業計画書には、
さまざまな理念が書いてありました。
その中の一つが、

『お客さまの幸せの量は、
 入店時より退店時の方が多くなければならない』


この逆はおカネと時間をととら亭に投資したお客さまにとって、
最悪の結果でしょう。
そして僕たちにとっては、ビジネス的な『終わり』を意味します。
そのお客さまは2度と来てくれませんし、
野方は一見さんばかりの観光地ではありませんから。

ところが、7年余りもこの仕事をやっていると、
この『崇高な』理念が、
必ずしも僕たちだけの努力で、
実現するとは限らない現実に気付いたのです。

たとえばある日のディナーで・・・

「いらっしゃいませ」

ご来店されたのは20歳代後半のカップル。
お二人の表情から少し緊張感が読み取れましたから、
初めていらっしゃったのだと思います。
こういうオヤジがホールにいる店は馴染みがないのかもしれません。

「こちらのテーブルにどうぞ。今夜は蒸しますね」

しかしこうして笑顔で話しかければ、
すっと緊張が解けるもの・・・

なのですが、二人の表情にはまだどこか、
楽しい食事をする前に相応しくない『何か』が感じられます。

ん? ケンカでもしたのかな?

テーブルの心理学によれば、
精神的に感応しているカップルは同じ姿勢を取るといいます。
特に二人が前傾姿勢の場合は、いわゆる『ラブラブ』状態。
ところがこの二人、料理を待つ間、楽しく語らい合うでもなく、
彼女はスマホに目を落とし、彼はぼんやり手持ちぶたさ。

おいおい、せっかくのデートなのになんてこった・・・

料理をサーブした時には彼女に笑顔が戻りましたが、
それも一瞬の花火のよう。
またすぐに沈黙が降り、あわや二人の恋は風前の灯火に・・・

そうはさせねぇ。

この状況を分析すると、へそを曲げているのは彼女の方。
であれば、恋のリカバリーオペレーションはプランAで行くべきです。

「食後にデザートはいかがですか?」

そう、これです!
名付けて Always sweets makes her smile. 作戦。

僕は4種類用意してあったデザートを、
彼の方を向いて2種類、
それから話すペースを若干落とし、
彼女の方を向いて残りの2種類を説明しました。
すると、

「僕はマルヴァプディング」
「え〜、それにするの? じゃあ・・・」

しばらく考え込んだ彼女は、

「私はアンズのソルベをお願いします」

Yes! それでいい!
キャラクターの違うデザートを2種類オーダーしたな。
ターゲットはレールに乗ったぜ!

僕は最初に彼女のアンズのソルベを、
次に彼女の視線を横切るようにゆっくりと、
彼のマルヴァプディングをサーブしました。

そしてプランAのキー。
アンズのソルベには2本のスプーンを、
マルヴァプディングには2本のデザートフォークをそれぞれ置いたのです。

完璧だ。

僕がパントリーに戻るとすぐ後ろから声が・・・

「ちょっとぁ! あたしにもそれちょうだいよぅ!」
「やだよ、これ、オレが頼んだんだから」
「いいじゃない、けちっ!」

彼が取られまいとするマルヴァプディングに、
彼女は素早くデザートフォークを突き刺し、
大きく切り取ったと思ったら一口パクリ!

「あ〜! とったな!」
「お〜いし〜!」
「それじゃそっちもくれよ!」
「やだ! あげない!」

席に着いた時とは様子が一変しています。

ふ、それでいい。

ととら亭は旅の食堂。
しかし、時にはこんなオペレーションもあるのでございます。

えーじ
posted by ととら at 15:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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