2019年03月28日

スーツを脱いでも

農業、漁業、乳業に畜産・・・

旅の食堂という仕事上、関連する業界のニュースには、
常日頃アンテナを張っています。

航空業界もそう。

外国に行くとなれば、
僕らの場合、ほぼ確実にお世話になりますからね。
とりわけセキュリティ(セーフティ)関連の話題は、
自分の命もかかわってくる問題なだけに敏感です。

そこでいやでも目につくのが事故のニュース。
先日のエチオピア航空の件だけではなく、
昨年発生したライオンエアーのインシデントは、
新鋭機の事故だったこともあって、
原因からその後の経過も含めてずっと追っていました。

いずれも全体像はまだはっきりしていませんが、
なんとなく目新しい話じゃないな・・・
という気がしています。

と申しますのも、
断片的に報道された情報を並べてみますと、

1.ボーイング737のメジャーアップグレードが行われた。
  中でも大きい変更点は大型で燃料効率に優れたエンジンの導入。
  そのためエンジンの取り付け位置が従来より機体の前方になった。

2.それに伴い機首が上がり易くなり、
  旧型より失速のリスクが増えてしまった。

3.そこで操縦支援を目的として失速の危険が発生した場合、
  自動的に機首を下げる操縦支援装置(MCAS)が『標準』で実装された。

ここまではなるほどね、という感じです。

が!

MCASの前段にある、
気流に対する翼の角度(迎角)を検知するセンサーが誤作動した場合、
機体はパイロットの意に反して機首を下げてしまい、
最悪は墜落してしまう・・・

今回はこの可能性が最も高いと考えられているようですね。

ボーイング社もこの危険性は織り込み済みだったようで、
機首の2カ所に取り付けられた迎角センサーの値に矛盾が生じた場合、
異常を知らせる装置を『オプション』で用意していたそうですが、
残念ながらエチオピア航空機はこれを実装していなかったとのこと。

しかし、異常を知らせるセンサーがなかったとしても、
機首が意に反して下がるという異常事態が発生した場合、
最も疑わしいMCASを、パイロットはなぜオフにしなかったのか?

いや、どうやら先に事故を起こしたライオンエアーのパイロットは、
一時解除の仕方を知っており、
実際に墜落するまで解除操作を24回もやっていた記録があるそうです。

ところがこれはたった40秒間しか解除状態を保持できず、
すぐにまた元に戻ってしまうため、完全にオフにするには、

1.MCASが一時解除されている40秒の間に、
  自動制御用のモーターへの通電を遮断する。
2.車輪を下ろす。

という方法があるそうで。

ここで二つ目の疑問が出てきます。

なぜパイロットはこの完全解除操作を行わず、
結果的に飛行機が墜落してしまったのか?

答えは『この操作方法を知らなかったから』という、
悲しいくらい単純なことでした。

と、ここまでの話で、
大なり小なりシステム開発に携わったことのある方なら、
ピンときたのではないかと思います。

これ、実によくある話じゃないですか?

カネのかかるシステム開発で、
最初に削られる予算はセキュリティ(セーフティ)関連です。

でしょ?

なぜか?

セキュリティ(セーフティ)関連の機能がなくても、
システムの基本部分は動作するからです。
たとえばウェブサーバーシステムの場合、
極端な話、DMZにファイアウォールを設置しなくても、
ユーザーはウェブサイトを閲覧できますからね。

だから資金力の乏しい国営のエチオピア航空が、
『オプション』を実装(購入)していなかったのは、
なんの不思議もありません。

続けてセキュリティの次に削られる予算は、
たいていユーザー(今回の場合パイロット)の教育費です。

これもIT稼業の現役時代、実によくぶつかった問題でした。

システムというのはどんなものでも、
電源を入れると勝手に仕事をしてくれる完全自律型ではありません。
いずれも人間が使って初めて結果が出るのです。

とはいえ、
どのプロジェクトでも奇妙なまでに共通して軽視されたのが、
ユーザーの教育でした。
『使いながら慣れる』は、
資本主義社会におけるシステム開発の合言葉ですからね。

しかしトライアル・アンド・エラー型の導入が許されない現場もあります。
それはエラーの代償が計り知れない原子力関連、医療、そして航空業界。

それでも自由競争が幅を利かせている現状では、
建前はともかくとして、内部を支配する優先順位が、
何よりも企業の利益となるのは当然の帰結ではないでしょうか?

ここで観客席から企業の経営陣を叩くのは簡単です。
でも、僕たちが彼らの立場だったら・・・どうでしょう?

むき出しの競争原理が国境を越えて働く航空業界で生き残りをかけ、
彼らとは違う判断が出来たでしょうか?

不可欠とはいえ、
短期的に直接利益を生まないセキュリティ(セーフティ)と教育。
おカネありきの世界でこの矛盾にどう取り組むべきなのか、
業界と就労上の立場を超えて、
僕たちは例外なく何らかの当事者なのかもしれない。

スーツを脱いで10年近くが経っても、
僕は今さらながらに、そんなことを考えていたのでした。

えーじ
posted by ととら at 17:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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