2019年08月10日

夏という旅 その1

『夏は単なる季節ではない。それは心の状態だ』

これは1977年に角川書店から出版された片岡義男氏の小説、
『彼のオートバイ彼女の島』のハードカバー版表紙で使われた言葉。

実はこれ、氏が創作したものではなく、
カリフォルニアで上映されていた、
サーフィン映画のナレーションから引用したものだそうな。

ま、その出自はともあれ、この言葉、
書店で本を手に取ったハイティーンの頃の僕には、
中身の物語以上に心に残るものとなりました。

そう、僕にとっての夏もまた、
まさしく単なる季節のひとつではなかったからです。

うまく説明するのは難しいのですが、
強いてたとえるなら、
夏とは、青くさい葛藤であり、初めての経験と向き合った驚きであり、
力まかせの恋であり、いわゆる青春そのものでありました。

その渦中で常に僕の頭の中心にあったのは、

受験勉強・・・

ではなく、ガールフレンドです。
(この若かりし頃の選択は間違っていなかったと、
50歳を超えてなお確信しております)

幸いにして時代はそうしたリビドーボーイズに味方し、
部活か、バンドか、オートバイに乗るか、
このうちどれかひとつでもやれば、
ほぼ確実に彼女をゲットできたものです。
(勤勉な僕は3つすべてやったので獲得率100パーセントでした)

実にシンプルな、いい時代だったのですよ。

しかし、これだけ的を絞っても、
人生、想定外のことは起こるものです。

これが一番モテそうだな?

というだけのピュアな動機で入部したバスケットボール部は、
映画『フルメタルジャケット(※)』のリー・アーメイ扮する鬼教官が、
マザー・テレサかと思えるようなマッドコーチの君臨する世界。

現代の規範では考えられないでしょうが、
1年生はほぼ毎週のようにパンチ&キックを見舞われ、
2年生でそれが月数回程度に減り、
3年生になってようやく3カ月に1回くらいで許される、
そんなアタタなところでありました。

まぁ、暑かろうが寒かろうが、
朝から晩まで走らされること馬の如し・・・

お蔭さまでこの歳になっても、
酷暑の中で走って平気な体にはなりましたが。

そのあと入ったのはラグビー部。
動機は同じく、
当時、週刊少年マガジンで連載されていた、
小林まこと氏作『1・2の三四郎』でラグビーが取り上げられ、
(その前に中村雅俊氏主演のテレビドラマ『われら青春!』もありました)
にわかに女の子の間でも注目を浴びつつあったからです。

ところが、ここでも人生の想定外が若き僕を待っていました。

このスポーツ、テレビや漫画のイメージと異なり、
暑い、汚い、むさくるしいの3拍子揃った、
とてもではありませんが、
夏にやるべき運動ではなかったのです。

さて、バスケットボールで培った足の速さとステップのキレを買われ、
バックスの華、ウイングとしてデビューしたところまでは良かったのですが、
ほどなく練習のキツさからフォワードメンバーが次々と辞め、
いま以上にひょろひょろ体形だった僕が、
ロックやエイトなどのバックローのみならず、
フロントローのプロップやフッカー(ありえん!)までやらされる破目に・・・

ここで僕は人生で初めて『気絶』という経験を味わいました。

対校試合中、加速した敵バックスを正面タックルで仕留めたのですが、
コンタクト時に頭を強打し、気が付けば相手ともどもグラウンドで大の字に・・・
ま、あれは痛みを感じる間もなく意識が飛んでしまうので、
意外と気持ちのいいものでしたけど、
自分がどこで何をしているのか思い出すのに、
しばし時間がかかりました。

100パーセント純粋に、不純な動機ではじめたスポーツではありましたが、
振り返ってみると、本来の目的であった、
ガールフレンド以上の意味があったような気がしています。

陽炎が揺れる焼けついたグラウンド、
「マイボー! マイボー!」「出せっ!」
飛び交うチームメイトの声、
青空に高く上がる楕円球・・・

今はひとりで走っていますけど、
時おり、はるかな道の向こうで、
ラグジャーを着たあの悪ガキどもが手を振っているような気がします。

「えーじ! おせ〜ぞっ!」

ちっ、うるせぇな!
いま追いつくよ!

夏とは、おじさんになった僕にとっても、
こうした特別な季節のままなのかもしれません。

えーじ

※ フルメタルジャケット
1987年に上映されたスタンリー・キューブリック監督のベトナム戦争映画。
全体が海兵隊訓練所とベトナムでの2部に構成されており、
海兵隊訓練キャンプにおける過酷な訓練で登場するのがリー・アーメイ扮するハートマン軍曹。
posted by ととら at 10:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/186394420

この記事へのトラックバック