2019年09月08日

サラリーマンホテルで嵐の夜に

関東地方は台風15号が接近中。
ここ東京でも空模様がだいぶ怪しくなってきました。
これから明日未明にかけてだんだん荒れて来るそうですね。

こりゃ今夜のディナー営業はアーリークローズかな?

とまぁ、ととら亭の営業ではこういうのもよくあることですが、
不思議なことに、今まで外国を旅していて、
天候理由で予定を変更したことは一度もないのですよ。
成田を飛び立った直後に大雪で空港閉鎖、
なんて、おっと危ねぇ! なケースもありましたけどね。

ところが国内では足止めを食ったことがあります。

あれは10数年前、会社員をやっていた頃のこと。
6月の蒸し暑いとある日、僕はチームメンバーのJ君を連れて、
名古屋に出張していました。
その時、進路を変えた台風の影響で、
思ったよりも早く上りの新幹線が運休になってしまったのですよ。
名古屋駅は足止めされた乗客たちで大混乱。

「J君、東京に帰るのは無理だ。プランBで行こう」

そこで駅近辺のビジネスホテルを梯子するも、
みな既に満室状態。

出遅れたか・・・

と周囲を見回す僕の目に入ったのが、
開発された駅前で沈み込んだように佇む古ぼけたビル。
褪色した電光看板から読み取れる文字は、

『サラリーマンホテル』

なんだありゃ?
やってるのかな? ダメもとで行ってみよう。

入り口を入るとそこは椅子すらない小さな部屋で、
銭湯の番台のようなフロントに、
およそホテルマンらしからぬおじさんがひとり。
僕は自分の入ったところが何なのか、すぐに理解しました。

駅前にこんな簡易宿泊所があるとは・・・

お値段はシングルで1700円也。
にもかかわらず冷房完備と書いてあります。

「今夜はここに泊ろう」

そう言って振り返った僕の目に入ったのは、
引きつった表情で途方に暮れるJ君。

「こ、ここに泊るんですか?」
「そうだよ」
「ここだけはやめましょうよ!」

彼はすがるような調子で哀願してきました。

「でも駅近辺で空いているホテルはもうないと思うよ。
 近隣も同じ状況じゃないかな。
 ここがいやならプランCは連絡通路でのダンボーラーだけど、
 それでもいいかい?」

彼もようやく運命を悟ったようです。

料金を前払いして入った部屋は、ベッドがひとつ、ぽつんとあるだけ。
風呂とトイレはもちろん共用。

「風呂に行こうぜ」

隣の部屋に顔を出してみれば、
J君はさっきにもまして落ち込んだ様子です。

ま、ひとっ風呂浴びてさっぱりすれば元気になるさ。

ところが地下に降りて入ったのは、浴室というより薄暗いボイラー室。
脱いだ服の置き場にも困るような部屋の中央に、
ひとりしか入れない大きさの風呂桶が僕らを待っていました。

あいやぁ〜・・・

安宿に慣れている僕にはよくあることでしたが、
育ちのいい、きれい好きなJ君には大きなショックだったようです。

さらに追い打ちをかけるように、
22時になったらエアコンが止まってしまいました。
どうしたわけだと廊下に出て、
そのフロアに冷気を供給している大型エアコンの前まで行ってみれば、
操作ノブに触れられないようパネルが塞がれているだけではなく、
ご丁寧にも鎖を巻いて南京錠までかけているではないですか。

おいおい、こりゃどうしたこっちゃ?

とフロントに行けども誰もいません。
で、宿直室とかかれた部屋をノックしてみれば、
さっきのおじさんが・・・

「あの、エアコンを動かして欲しいのですけど」
「エアコンは22時で止めるんです」
「だってフロントに冷房完備って書いてあるじゃないですか」
「そう言われても決まってるんです」
「でも22時で止めるなんて書いてありませんよ」
「俺だって決められたことをやってるだけなんだよ!」

逆ギレか、こりゃダメだ。

さいわい僕らの部屋は南に面していなかったので、
窓を開けていても雨は吹き込んで来ません。
外から風の唸り声が聞こえてきます。

扇風機もない部屋のベッドに寝ころんで天井を見上げていると、
東南アジアの安宿を思い出すな。

いつしか僕は眠りに落ちていました。

翌朝、隣の部屋を見てみるとJ君の姿がありません。
携帯電話にかけてみたら近くのファミレスにいるとのこと。

なんと憐れな彼は一睡もできず、未明のうちにチェックアウトして、
ファミレスで時間を潰していたそうです。

そんなJ君がどうしたわけかバックパッカーとなり、
今ではソロで東南アジアの国々を旅しているというのも、
嵐の夜の数奇な運命を感じます。

もしかしたら彼は僕とは逆に、
タイやラオスの安宿で、
あのサラリーマンホテルを思い出しているのかもしれませんね。

えーじ
posted by ととら at 15:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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