2019年12月27日

身近な謎を追いかけて

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これ、
先日バレンシア出身のスペイン人のお客さまから頂いたのですけどね、
なんだか分かります?

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お皿に盛るとこんな感じ。

え? なんか肉を煮た料理?
ま、それはそうなんですけど料理名は何だと思います?

実は皆さんがよく知っている料理なんですよ。
ほぼ和食に帰化したともいえるものですから。

ん? 見当もつかない?
そうですか、じゃ、答えは・・・

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じゃ〜ん!
答えはエスカベッシュ(Escabeche)、つまり『南蛮漬け』です。

え? これのどこが『南蛮漬け』だって?
どう見たって魚じゃなくて肉だし、
玉ねぎの薄切りも乗ってないじゃないか?

その通り。

肉はウズラですし、一緒に入っていたのは、
ガーリック、ポワロー、ホールブラックペッパー、そして月桂樹の葉。

そしてお味の方は、
ほんのり酸味を感じる濃厚なスープに入った、
骨までほろほろに煮込まれた薄い塩味のウズラですからね。
甘味はありません。

でも、これは缶詰のラベルにもある通り、
エスカベッシュ(南蛮漬け)なんですよ。

以前、ギョーザ本の巻末でもちょろっと触れましたけど、
ポルトガル(南蛮)経由で日本に伝わった南蛮漬けは、
日本でローカライズされて僕らがいま知る形になりましたけど、
スペインでは魚に限らず、
チキンやポークなど肉のエスカベッシュもポピュラーなのですよ。

しかし、これがオリジナルではなかった。

肉じゃがや牛丼など、その国の言葉で意味がある場合は、
そこで生まれた可能性が高いのですが(例外もあります)、
ワイシャツやアイロンのように現地語で意味がない言葉は、
借用語と考えられ、当然、その語が指し示す対象も、
別の場所から伝播したと考えるのが自然です。

反対に、既存のモノを指し示すその国の言葉が、
別の外来語に置き換わるケースは滅多にない。
(ここでも常に例外の存在を忘れるべきではありませんが)

この言語の傾向をエスカベッシュに当てはめてみると、
なるほどEscabecheにはスペイン語としての意味がない。
これは分解しても同じことで、
Es + cabeche、Esca + beche、Escabe + cheなど、
さまざまな組み合わせで調べてみましたが、
いずれの音素にもスペイン語としての意味はありません。

そこで更に調べてみると、
出典は不明ですが、エスカベッシュは西暦700年から1300年の間、
イベリア半島がムーア人に占領されていた時代に、
彼らの料理、al-sikbaj(アッシクバジ)が伝わったとの情報がありました。

しかし、ではアラビア語でal-sikbajに意味があるかというと、
これまたない。

おいおい、それじゃこいつはいったいどこから来たのかと、
もう一丁しらべて分かったのが、
この言葉の語源はペルシャ語のシクバsikbaであり、
sikは酢、baは食べ物の意だそうな。
しばらく前に偶然ご来店されたイラン人の方に確認したところ、
確かに意味はそうなるとのこと。
そしてそのシクバなる料理は、蜂蜜やブドウの果汁、
デーツのシロップなどの甘味料と酢で何らかの肉を煮た料理だったそうな。

ここで僕が過去形で書いたのは訳がありまして、
これまた理由は不明なのですけど、
現在イランでシクバは食べられていないとのこと。

僕らはまだイランの地を踏んでいませんが、
確かにこれまで訪れたアラビア半島や北アフリカの国々でも、
al-sikbajやsikbaと呼ばれる料理を見聞きした記憶はありません。

しかし、この流れを裏付ける物証のひとつが、
今回お目にかけた、日本の南蛮漬けとは似ても似つかない、
ウズラのエスカベッシュなのですよ。
これは全体的に見て、よりsikbaに近いと思いませんか?

この謎を解く手がかりは、ムーア人のテリトリーである、
モロッコとアルジェリアの北部にある、と僕は考えています。

ま、こんな風にして好奇心を原動力に、
僕らは旅先を決めているのですよ。

あの辺はいついけるかなぁ・・・

えーじ
posted by ととら at 13:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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