2020年04月20日

入院日記 パート3 その10 最終回

今日の東京地方は雨。
皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
在宅勤務の方は、
この微妙な軟禁状態に辟易し始めた頃じゃないかな?

僕らの休業も9日目に入りました。
と申しましても、アパートにじっとこもっているわけではなく、
日中は店に出て、それぞれ営業以外の仕事をしていますから、
生活のメリハリはあまり変わりません。

しかしながら僕は入院以来、
生活パターンとその内容が一変し、
さながら別の国を旅しているような感じになっています。

そう、いろいろありましたけど、
病院での不自由な日々も終わりが近付くにつれ、
いつもの旅と同じように、
何となく名残惜しい気分になってきたのですよ。

_____________________________

今日は3月29日。

お約束どおりのトラブルに見舞われましたが、
どうにか退院可能な状態までリカバーできたようです。
僕はデイルームの窓から新宿の高層ビル群を眺めつつ、
帰宅後の生活を考え始めていました。

ここまでほんの6日間しか経ってないのに、
あれこれあったせいか、もっと長くいたような気がする。
それに何かとやるも少なくなかったから、
入院中に予定していたことを全部はできなかった。
でも、まぁ、いいか。
いちばん大切なことは終わったんだ。

今日は明日の退院に向けて、
松葉杖の使い方のおさらいをしよう。
リハビリの先生は、
ひとりで階段の昇降練習はやらないようにと釘を刺していたけど、
大丈夫、うまくできるさ。

僕は退院後にすぐ必要となる動作を中心に、
午前と午後、それぞれ自主リハビリのための時間を決めました。

ん〜・・・手術した左ひざはともかく、
このリハビリで両腕の故障が再発したな。

両掌の体重がかかる部分にまめができて痛み、
右ひじもギシギシきしみ始めています。
腰の危険レベルが下がったことが唯一の朗報でしょうか。

そして翌日。

「やぁ、久保さん、どうですか?」

朝食が終わって間もなく主治医の先生が現れました。

「お蔭さまで。もう痛み止めも飲んでいません。
 それから松葉杖で階段の昇降もできるようになりましたよ」
「それは良かった。じゃ、ちょっと傷を見せてもらえます?」

僕は自分で装具を外すと、

「ふぅ〜ん、いいですね。
 今日、退院ですからカーゼを取り換えておきましょう」

そういえば傷口を見るのは初めてです。
広い面積の特殊なフィルムを剥がすと、
内視鏡を入れた二つの小さな傷と、
5センチほどの長さの縫合後の残る傷が現れました。

「うん、きれいになってるな。抜糸はありません。
 シャワーを浴びてもいいですけど、
 この傷の部分は濡らさないで下さい。
 化膿するかもしれませんからね」

僕は医療関係者と話をする時、
相手の言葉だけではなく、話し方や表情にも注意を払います。
こちらが一番知りたいことは、
実のところその辺から読み取れることが多いのですよ。

ノンバーバルもOK、どうやらうまく行ったみたいだな。

時計は9時45分。
僕は服を着替え、撤収の準備を始めました。
まもなくともこからメールが入り、

「病院に着いたよ。デイルームで待ってるからね」

新型コロナウイルス対策から、
この病院でも原則的に面会は禁止され、
特例的に認められている入退院の付き添いも、
病室に入るのは制限されています。

「やぁ、ありがとう」
「どう、具合は?」
「とてもいいよ。松葉杖の使い方も結構うまくなったんだぜ」
「じゃ、病室からバックパックを取って来るね」

こうして会計を済ませた僕らは、
ナースセンターで顔なじみになった看護士さんたちに別れを告げ、
タクシーでアパートに戻ったのです。

「大丈夫、気をつけてね」

帰ってすぐ自主リハの成果が試される時となりました。
アパートの階段は病院のそれと違い、
段の奥行きが浅く、
登る角度も急になっている上に段数が倍はあります。

さぁて、本番だ。

僕は練習の時と同じように目を閉じて深呼吸し、
感覚を集中させてから最初の一段に取り掛かりました。

杖に重心、右足を上げる、右足に加重、体を引き上げる、
杖に重心、右足を上げる、右足に加重、体を引き上げる、

これをゆっくり無心に繰り返し、やがて2階の通路に到着。

よし、次でいよいよ終点だ。部屋に入るぞ。

かって知った場所でも松葉杖では初めてですから緊張します。
ともこが先に回ってドアを開けてくれました。

たたきを上がって・・・靴を脱ぎ・・・そしてもう一段上がる・・・

僕は部屋の中をゆっくり進み、仕事部屋にある椅子に腰かけて、

「ふぅ〜・・・帰ってきたぜ」
「おつかれさま!」

ひとつの旅の終わり。
それはまた同時に、次の旅の始まり。

ま、それはいつものことなんだけどさ、
今日のところは、ちょっと一息つかせてもらおうかな?

僕はともこが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、
まるで初めてチェックインしたホテルの部屋であるかのように、
自分の部屋を見つめていました。

End

えーじ
posted by ととら at 12:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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