チャック・ノーランド。
(トム・ハンクスが映画『キャストアウェイ』で演じた主人公)
ヘンリー・D・ソロー。
アレキサンダー・セルカーク。
(ロビンソン・クルーソーのモデルとされる人)
この3人に共通していることとは何か?
それは平等が不必要だったこと。
なぜか?
自分の周りに他者がまったくいなかったから。
そう、他人がいない状況で、
平等というのは不要であるばかりではなく成立すらしないんですよ。
ではなぜ他者がいると必要になるのか?
それは競争が発生するから。
ではその競争とは何なのか?
個人的な幸福を追求するために、
必要かつ限りあるリソースを他者と奪い合うこと。
とどのつまり、その基本ルールの一つが平等なんですよ。
一見、競争とは無縁の、法のもとの平等ですら、
やっぱり個人的な幸福のためですからね。
たとえば先に挙げた3人のように、
無人島や誰もいないウォールデンの森の中で得た食料は、
ぜんぶ自分の胃袋に入りますから競争は起こりえません。
(ある意味、法すらいらない)
しかし人口稠密の現代社会に住む僕たちは、
食料はともかく、学校の定員、企業や役所の採用枠という、
需要が供給を上回るリソースを争って競争しなければなりませんし、
ときには恋人や伴侶を巡っても、
他者と競い合わねばならないことだってあります。
ここで素朴に訊いていいですか?
競争の理由である幸福とは何なのでしょう?
具体的にはおカネ? 安定した職業? 大きな家?
社会的な地位? 名声? 権力? そして人も羨む素晴らしい家族?
おっと今どきでいえば、いいね!とフォロワーの数?
多分、これらのひとつだけではなく、
僕たちのイメージする幸福とはその複合体なのだと思います。
しかし、水を差すようで恐縮ですが、
これらが揃うと本当に幸せになれるのでしょうか?
だとしたら、ジャンキーになったハリウッドスターや、
自殺した超有名ミュージシャンをどう説明します?
大企業の社長ですらビルの屋上からジャンプする時代ですよ。
まぁ、そういう雲の上の人だけではなく、
僕の周りですら『一流』大学を卒業して、『一流』企業に就職し、
50歳を手前にリストラの憂き目にあった人や、
遊んで暮らせる孤独な大金持ち、
結婚して家族を手に入れても泥沼の離婚調停で苦しんでいる人など、
社会的に認知された幸福のモデルを実現したにもかかわらず、
期待とは真逆の結果に陥った人は、けして稀な存在ではありません。
そしてその逆もまた然り。
暴走族上がりの低学歴にもかかわらず暖かい家庭を築いた人。
凶状持ちでも多くの人に慕われている慈善事業家。
ルックスはモデルとかけ離れていてもやさしい伴侶を得た人。
シングルでも心から仕事と趣味を楽しんでいる人。
こうした幸福のモデルとは一致していないにもかかわらず、
満ち足りた人生を送っている人も少なくない。
(もちろん悩みが一切ないという意味ではなく)
この歩く現実を目の当たりにして、ふと思ったんですけどね、
競争って、ぜったい必須ではないんじゃないかしらん?
別のいい方をすると、
競争の勝者に幸福が約束されていない事実を認めるなら、
それこそ自らの自由意思で競争をしない人生も選び得るのではないか?
それに必要なのはたったひとつ。
人から抜きんでるスキル以上に大切なのは、
自分の幸福とは何なのか?
この問いに正面から向き合うこと。
なぜならアノニマスが囁く幸福のモデルを闇雲にコピペして、
自分のオリジナルだと錯覚すると、
多大な努力と、時間とおカネを投資しても、
結局、得たものはせいぜい束の間の満足しかもたらさないから。
そう、そもそも幸福とは色や形を持つモノではなく、
心の状態ですからね。
閑話休題。
究極的に、僕らはひとりの例外もなく、
不平等という意味においてのみ平等である。
どうやら今の僕の頭では、
これをテーゼとして認めざるを得ないようです。
(どなたか突破できるなら助けてください)
しかし、平等が競争の影としてしか存在しないのであれば、
自分なりの幸福のモデルを持ち、競争を回避することで、
不平等な現実を嘆く動機もまた消しうるのではないか?
確かに、S氏は不幸に見えました。
いや、実際そうだったのでしょう。
でも、談話室の彼女は、
自身の幸福のモデルにおいて、ハッピーだったのかもしれない。
そう、僕に背を向けていた彼女は、
談話室に差し込む日差しを浴びて、微笑んでいたのではないか?
「わたしは幸せよ」
今の僕には、そんな声が聞こえるような気もします。
End
えーじ
2021年06月06日
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不平等については…また前の記事にて。