ととら亭を始めたばかりの頃は、
いや、独立する準備を始めた時から、僕らは試行錯誤の連続でした。
旅の食堂を立ち上げるための教科書やマニュアルなんてありませんし、
教えてくれる人もいませんでしたからね。
とにかくすべてが手探りだったのです。
そしてようやくととら亭の仕事と取材旅行の形ができたのは、
オープンしてから2年の歳月が流れたころでした。
しかし、形ができるということは、
形に拘束されるということでもあります。
言い換えると、できることが分かれば、
できないこともまた分かってしまう。
日常の仕事の中で、最も大きな限界を感じたのは、
まず料理についてでした。
量と質が反比例の関係にあるのは飲食店とて例外ではありません。
とりわけ一人の料理人が殆どの料理を手作りする、
ととら亭のようなレストランの場合、
数をこなす仕事は料理の質に大きな影響を及ぼします。
キッチンできりきり舞いするともこを見ていた僕は、
これをずっと最も重い経営課題だと考えていました。
プロデューサーの立場でもつらかったのは、
彼女が本当の実力を発揮できるよう、
ととら亭をチューニングしきれなかったことです。
身内びいきに聞こえるかもしれませんけど、
彼女の実力は現状をより上回るものなのですよ。
そして、もうひとつの限界が取材旅行でのこと。
取材に出る前は、かなり深く事前調査をしています。
その結果をもとに取材対象料理のリストを作り、
伝播ルートや示準料理の比較軸を決めて行くのですが、
現地で思わぬ料理に出会い、
シナリオが大きく変わってしまったケースも珍しくありませんでした。
そんなとき、「よし、それじゃ別の角度から掘り下げてみよう!」
とか、「場所を変えて調査範囲を広げてみよう」みたいに、
臨機応変な対応ができればよかったのですけど、
いずれもスケジュールがみっちりで時間の制約が多い旅では、
「む〜・・・仕方ない。今回はここで打ち切ろう」
と後ろ髪ひかれる思いで帰国するより他はなかったのです。
こうして月日は流れ、独立して6年ほどが経ったころ、
僕らがこれらの問題を解決する手段は、自分たちの物件を手に入れ、
時間の制約から解放されるしかない、という結論に至っていたのでした。
たぶん、ここまでの話を聞いて皆さんは奇妙に感じているでしょう。
自分の土地を、家を、店を持つといえば、
一般的にそれ自体が夢であり、目的そのものです。
しかし、僕らにとっては旅を続けるための手段でしかありません。
この仕事をしていて気付いたことがあります。
地球は、僕らが想像している以上に大きい。
そしてその自然と文化の多様性は、
情報の世界からでは汲み取り切れない深みと広がりがあります。
僕らはこの生のうちに、どこまで遠くまで行けるだろうか?
こうして始めた二人だけの移転プロジェクトを、
僕らはTReP(トレップ=Totoratei Renewal Project)と名付けました。
そしてそれはお約束どおり、6年を超える茨の道となったのです。
to be continued...
えーじ
2021年10月03日
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