2023年02月21日

寅さんと僕

木賃宿(きちんやど)って知ってます?

昨今は簡易宿泊所と名を変えましたが、
そういうと寿町や山谷のドヤを想像してしまうかもしれません。
ドヤは長期滞在型、木賃宿は一時型なので、
用途がちょっと違うんですよね。

かといって安宿といえば、
バックパッカーズの和訳になりつつあるようなので、
僕は敢えて古語のまま、木賃宿と呼んでいます。

さて、この宿、どういうところかと申しますと、
簡単にいえば、一般的に相部屋で安く泊まれる宿のこと。
たいてい襖で仕切られた大部屋に雑魚寝するシステムで、
宿泊客は観光旅行者ではなく、ほとんど行商人ですね。
(山頭火の旅日記にもよく出てきます)
僕は旅費を行商で稼いでいたわけではありませんが、
手軽さと懐事情から、しばしば木賃宿に泊まっていました。

さて、街から街を渡り歩く行商人といえば、
柴又のシンボル、寅さんもそのひとり。
もちろん彼は架空の人物ですが、
もし実際に存在していたら、
どこかで会った可能性もあるのではないか?
そんな風に思うことがあります。

寅さんの生年月日は一説によると昭和15年11月29日。
ということは、僕の23歳上。

「ほい、ちょっくら御免なさいよ。
 荷物をここに置かせてもらいますからね・・・
 お、こいつは驚いた!
 髪が長いから女とばかり思っていたら、
 あんた、男じゃねぇか!」
「え? ああ、ずいぶん切ってないもんで」
「最近はそういうのがファッションってのかい?」
「いえ、おカネを節約しているだけです」
「なんだ散髪代もないのか、しけたやつだね〜。
 で、お兄ちゃん、ここで何をしてるんだ?」
「仕事を辞めて、オートバイで旅をしています。
 おじさんは?」
「俺かい? 俺はまっとうに働いているよ」
「じゃ、出張ですか?」
「シュッチョウ? あ、ああ、びじねすまんってやつだからな。
 全国を飛び回って、いろいろ忙しいんだ」
「格好いいですね。本社は東京?」
「おお、葛飾区の柴又だ。帝釈天って知ってるか?
 その参道でダンゴ屋や印刷会社なんかを手広くやってる。
 ま、仕事は叔父夫婦と妹に任せてるがな」
「実業家ですか、チェーン展開してるなんてすごいですね。
 僕は無職なんで、帰ったらまた仕事を探さなくちゃ。
 柴又はまだ行ったことがありません」
「おめぇ、名前は?」
「久保えーじです」
「俺の姓は車、名は寅次郎ってんだ。
 仕事に困ったらいつでも柴又のホンシャに来な」
「本当ですか?」
「ああ、お前は筋が良さそうだから、
 海外支店の総支配人なんてどうだ?」
「ありがとうございます!」

そして数週間が流れ・・・

「御免ください」
「はい、おひとりさん?」
「あ、いえ、仕事で来ました。
 車社長はいらっしゃいますでしょうか?」
「え? 仕事? ちょ、ちょっとお待ちください」

「ねぇ、あんた!
 髪の長いスーツを着た人が来て車社長に会いたいって」
「はぁ? 車社長? また寅のやつがなんかやったんじゃ・・・
 さくら! 寅はまだ寝てんのか?」

「ちょっと!お兄ちゃん!起きてよ!」
「うるせぇな・・・なんだよ。
 俺は遅くまで仕事していて疲れてんだ」
「仕事って、御前様のとこで飲んでただけでしょ!
 若い人がお兄ちゃんを訪ねてきてるのよ」
「若い人? 女?」
「違うわよ。髪の長いスーツを着た男の人」
「知らねぇなぁ・・・留守って言ってくれ」
「ダメよ。下で待たせてるんだから」
「ったく、人気者はつらいよ。
 ゆっくり寝かしてももらえねぇとは」
 
「あ、こんにちは!えーじです!
 仕事をしに来ました。
 外国は得意なんで、いつでも出張できます」
「え? あんた、誰?」
「誰って、ほら、宿毛の木賃宿で一緒だったえーじですよ!
 ダンゴ屋の海外支店を展開するって言ってたじゃないですか」
「海外支店? 寅、おめぇ、そんなことを言ったのか?」

「あ! 思い出した! 長髪のオートバイ野郎か!」
「はい!」
「バカだね〜、本当に来やがった」
「お兄ちゃん、どういうこと?」
「ちっ、しょうがねぇなぁ・・・
 おいちゃん、今日からこいつを頼むよ」
「お、おい! 頼むって、うちには他人を雇う余裕なんか・・・」
「そんな冷てぇこというなって!
 この頭を見てよ、ほら!
 散髪代もないやつを黙って帰すわけにもいかないだろ?
 どうせ帰りの電車賃もないんだろうし。
 んじゃ、とりあえず店の前の掃除でもしてもらうか。
 おっと、前だけじゃだめだ、向こう三軒両隣も忘れちゃいけねぇよ。
 世のなか付き合いってのが大切だからな。
 おう、さくら、箒とチリトリ!」
「そ、掃除・・・ですか? あの〜、海外出張の件は・・・」
「ったく、これだからせっかちな若者は困るんだ。
 千里の道も一歩からって言うだろ?」
「はぁ・・・」

と、こんなことになっていたかも・・・

えーじ

P.S.
ちなみにととら亭の由来は寅さんではなく、こちら
posted by ととら at 00:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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