木賃宿(きちんやど)って知ってます?
昨今は簡易宿泊所と名を変えましたが、
そういうと寿町や山谷のドヤを想像してしまうかもしれません。
ドヤは長期滞在型、木賃宿は一時型なので、
用途がちょっと違うんですよね。
かといって安宿といえば、
バックパッカーズの和訳になりつつあるようなので、
僕は敢えて古語のまま、木賃宿と呼んでいます。
さて、この宿、どういうところかと申しますと、
簡単にいえば、一般的に相部屋で安く泊まれる宿のこと。
たいてい襖で仕切られた大部屋に雑魚寝するシステムで、
宿泊客は観光旅行者ではなく、ほとんど行商人ですね。
(山頭火の旅日記にもよく出てきます)
僕は旅費を行商で稼いでいたわけではありませんが、
手軽さと懐事情から、しばしば木賃宿に泊まっていました。
さて、街から街を渡り歩く行商人といえば、
柴又のシンボル、寅さんもそのひとり。
もちろん彼は架空の人物ですが、
もし実際に存在していたら、
どこかで会った可能性もあるのではないか?
そんな風に思うことがあります。
寅さんの生年月日は一説によると昭和15年11月29日。
ということは、僕の23歳上。
「ほい、ちょっくら御免なさいよ。
荷物をここに置かせてもらいますからね・・・
お、こいつは驚いた!
髪が長いから女とばかり思っていたら、
あんた、男じゃねぇか!」
「え? ああ、ずいぶん切ってないもんで」
「最近はそういうのがファッションってのかい?」
「いえ、おカネを節約しているだけです」
「なんだ散髪代もないのか、しけたやつだね〜。
で、お兄ちゃん、ここで何をしてるんだ?」
「仕事を辞めて、オートバイで旅をしています。
おじさんは?」
「俺かい? 俺はまっとうに働いているよ」
「じゃ、出張ですか?」
「シュッチョウ? あ、ああ、びじねすまんってやつだからな。
全国を飛び回って、いろいろ忙しいんだ」
「格好いいですね。本社は東京?」
「おお、葛飾区の柴又だ。帝釈天って知ってるか?
その参道でダンゴ屋や印刷会社なんかを手広くやってる。
ま、仕事は叔父夫婦と妹に任せてるがな」
「実業家ですか、チェーン展開してるなんてすごいですね。
僕は無職なんで、帰ったらまた仕事を探さなくちゃ。
柴又はまだ行ったことがありません」
「おめぇ、名前は?」
「久保えーじです」
「俺の姓は車、名は寅次郎ってんだ。
仕事に困ったらいつでも柴又のホンシャに来な」
「本当ですか?」
「ああ、お前は筋が良さそうだから、
海外支店の総支配人なんてどうだ?」
「ありがとうございます!」
そして数週間が流れ・・・
「御免ください」
「はい、おひとりさん?」
「あ、いえ、仕事で来ました。
車社長はいらっしゃいますでしょうか?」
「え? 仕事? ちょ、ちょっとお待ちください」
「ねぇ、あんた!
髪の長いスーツを着た人が来て車社長に会いたいって」
「はぁ? 車社長? また寅のやつがなんかやったんじゃ・・・
さくら! 寅はまだ寝てんのか?」
「ちょっと!お兄ちゃん!起きてよ!」
「うるせぇな・・・なんだよ。
俺は遅くまで仕事していて疲れてんだ」
「仕事って、御前様のとこで飲んでただけでしょ!
若い人がお兄ちゃんを訪ねてきてるのよ」
「若い人? 女?」
「違うわよ。髪の長いスーツを着た男の人」
「知らねぇなぁ・・・留守って言ってくれ」
「ダメよ。下で待たせてるんだから」
「ったく、人気者はつらいよ。
ゆっくり寝かしてももらえねぇとは」
「あ、こんにちは!えーじです!
仕事をしに来ました。
外国は得意なんで、いつでも出張できます」
「え? あんた、誰?」
「誰って、ほら、宿毛の木賃宿で一緒だったえーじですよ!
ダンゴ屋の海外支店を展開するって言ってたじゃないですか」
「海外支店? 寅、おめぇ、そんなことを言ったのか?」
「あ! 思い出した! 長髪のオートバイ野郎か!」
「はい!」
「バカだね〜、本当に来やがった」
「お兄ちゃん、どういうこと?」
「ちっ、しょうがねぇなぁ・・・
おいちゃん、今日からこいつを頼むよ」
「お、おい! 頼むって、うちには他人を雇う余裕なんか・・・」
「そんな冷てぇこというなって!
この頭を見てよ、ほら!
散髪代もないやつを黙って帰すわけにもいかないだろ?
どうせ帰りの電車賃もないんだろうし。
んじゃ、とりあえず店の前の掃除でもしてもらうか。
おっと、前だけじゃだめだ、向こう三軒両隣も忘れちゃいけねぇよ。
世のなか付き合いってのが大切だからな。
おう、さくら、箒とチリトリ!」
「そ、掃除・・・ですか? あの〜、海外出張の件は・・・」
「ったく、これだからせっかちな若者は困るんだ。
千里の道も一歩からって言うだろ?」
「はぁ・・・」
と、こんなことになっていたかも・・・
えーじ
P.S.
ちなみにととら亭の由来は寅さんではなく、こちら。
2023年02月21日
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