僕の20歳代の旅はオートバイに乗って国内を周るものでしたが、
正しくはライダーではなく、登山ライダーでした。
若者にありがちな悩みとして、
当時僕は自分の限界に直面しており、
それを突破するには物理的に2次元から3次元の世界へ出たらどうだ?
と短絡的に考えていたのです。
そう、スピードはオートバイで、
新しい次元、つまり「高さ」は登山で、というわけです。
しかし若さというのは恐れを知らぬが故に、
無謀と勇気の違いを理解できないもの。
僕は夏山登山に飽き足らず、ロッククライミングから、
冬山にまで手を伸ばしてしまったのでした。
当然、痛い目に遭います。(お約束ですな)
あれは20歳代の後半のこと、僕は真冬の仙丈ヶ岳を登っておりました。
緩やかな山並みとはいえ、曲がりなりにも3000メートル峰のひとつ。
頂上に近付くころには、
膝上からときに腰まで埋まる新雪のラッセルで、
疲労は極致に達していました。
晴れてはいても稜線は風が強く、
体感温度はマイナス20度以下だったでしょう。
く〜・・・きついな。
膝が上がらない。
北側のやや低い尾根沿いに、
半分雪に埋もれた山小屋が目に入りました。
そうだ、頂上直下まで行けば、あんな避難小屋があるはずだ。
もう少し、がんばろう。
と自分を鼓舞したものの、最短ルート上は雪が深く、
フルパワーでラッセルしても、牛歩のようにしか進めません。
耳元で小雪交じりの風が唸りを上げています。
ダメだ、別のルートを探そう。
風は北から・・・ということは稜線と南の斜面の雪が深い。
ならば北側から斜面をトラバースして回り込めば、
雪の浅いルートで行けるかもしれない。
この方が早道かも。やってみよう!
思えばこれが大きな間違いでした。
斜面のトラバースはバランスを崩しやすく、
ましてやすでに僕はくたくた。
さらに北側の斜面ということは、
新雪のすぐ下が凍っている可能性もある。
斜面を少し下りながら弧を描くように少しずつ登り始めたところで、
おわっ!
力をかけていた左の山足のアイゼンが氷ではじかれ、
僕は山側に転倒してしまったのです。
そして体を斜面に打ち付けた瞬間、最悪の事態を瞬間的に悟りました。
ヤバイ! 薄い新雪の下はアイスバーンだ!
滑落停止!
反射的に体を捻って全身でピッケルを打ち込みましたが、
あっという間に滑落スピードが上がっており、
氷を切り裂きながらも減速できません。
斜度が最初よりきつくなってきました。
止まれ〜っ!
そう叫んだ矢先、両手で押し付けていたピッケルの刃が岩に当たり、
その衝撃で僕は完全にバランスを失ってしまったのです。
そこからはどんどん加速しながら、急な斜面を転げ落ちるだけ。
自分がまき上げる雪煙で息が詰まりそうです。
ダメだ! 姿勢を制御できない!
ああ、もうすぐ岩か立木に激突して終わりか・・・
そう思った途端、僕は重い衝撃を全身で感じ、
気を失ってしまったのです。
to be continued...
えーじ
2023年08月24日
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