2010年08月26日

食べ物の声

3回味が変わる珈琲だって?
1杯飲んでいるうちに?

北海道を旅していた時、
函館の旅人宿のご主人からいかにも珍妙な話を聞きました。
その珈琲が飲める場所は、谷地頭温泉のすぐ近く。
アンフィニなるカフェ。

想像するに、比重を利用して 
違う成分の珈琲をカップの中で分離させた、
キワモノじゃないのかな?

そんな風に疑っていた僕に気付いたのか、
とにかく目から鱗の珈琲だから行ってみろとの強い勧めもあり、
そこまで仰るならばとその店へ。

カフェは年配の教員のような風貌のマスターが、
ひとりで営業していました。
カウンターに座って早速味の変わる珈琲を注文。

どんな淹れ方をするのか興味津々でしたが、
何の変哲もないペーパードリップ。
しかし落ちる珈琲に差し込まれているのは、
理科の実験で使う温度計。
そして反対側の手にはストップウォッチ。

「よし、できた!」

そう呟いたマスターは僕にカップを差し出すなり、

「どうぞ、飲んでみてください。」

なるほど、このパフォーマンスで心理的な効果を与えるのか。
どこまでも斜に構える僕は、おもむろに香りを吸い込みました。
それはとても素直で透明な匂い。
パフォーマンスはともかく、やることはやってるのね。

そして一口。
おいしい・・・
僕の苦手な酸味に重心を置いた味なのに、
雑味が全くなく、コクと苦味、香りのバランスが絶妙。

味が変わるというのは本当かもしれない。

僕は一言も口をきかず、
ただ目の前のカップ一点に感覚を集中しました。
少しずつ飲み進むにつれ、確かにかすかな変化が感じられます。
キリマンジャロの風味がマンデリンに変わるような、
劇的なものではありません。
しかし、心を研ぎ澄まし、感覚を集中すれば、
はっきりそれと分かる変化があるのです。
それも3回。

はっと我に返り、前を見ると、
やさしい眼差しで微笑むマスターの顔がありました。

子供の頃から随分色々な店を、
母親に連れられて食べ歩いていた僕は、
それなりに美味い不味いが分かると自負していましたが、
一皿の料理と1対1で向き合う術は学んでいなかった、
そう、この瞬間に悟りました。

多分、この珈琲も、友人たちと歓談しながら、
本を読みながら、i−Podで音楽を聴きながら飲んでいたら、
へぇ〜美味しいね、程度しか分からなかったでしょう。

みなさんは如何ですか?
食べ物の味が分かる自信がおありでしょうか?

昨今、「ながら食べグッズ」が売れているようですが、
「ながら食べ」で分かる味は、
調味料などの表面的なものでしかありますまい。

目の前のお料理は、とても、とても小さな声で、
あなたに何かを語りかけているのです。

えーじ
posted by ととら at 15:14| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
 懐かしい、懐かしい、珈琲店アンフィニの三度味の変わる珈琲の店。 
 記憶の彼方にある店でしたので、本当にあったのかな!?なんて、まるで、夢の中で、行ってたような気がしていましたが、本当にあったのですね。 
 閉店は残念でしたが、しばし、記憶の中の函館に旅させて頂きました。
 ありがとうございました!
Posted by 剣岳 at 2019年04月07日 01:45
剣岳さま

コメントありがとうございました!

本当に懐かしいですね。
僕もアンフィニを訪れたのは25年くらい前ですので、
いま思い返すと、
たしかに夢の中のことだったような気がします。

でも、マスターが教えてくれた食べ物との向き合い方は、
数十年の月日を経て、
ととら亭のポリシーの一部にもなりました。

旅の中でしか学べないこと。
多忙な日常では些細なことかもしれませんが、
ひとりの旅人として引き継いで行ければと思っています。

ああ、またあの街に行きたいですね!
Posted by えーじ at 2019年04月07日 17:27
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