2019年04月07日

第17回取材旅行番外編 その3

「いま何時?」

ともこが起きたようです。

「18時ちょっと過ぎだよ。
 よく眠っていたみたいだけど、具合はどう?」
「うん、だいぶ楽になったみたい」
「じゃ、熱を測ってみよう」

37.8度・・・か。
解熱剤が効いてきたみたいだな。

「外は寒そうね」
「ああ、もう氷点下だ。お腹空いたかい?」
「ちょっとなら食べられると思う」
「それじゃピデ(トルコのピッツア)でも買って来るよ。
 今夜は部屋で食べよう」
「ダメよ、取材の日数が限られてるし、
 カイセリでは調べなきゃならない料理が沢山あるんだから」
「そりゃ分かってるけどさ。
 せっかく熱が下がって来たのに寒い外を歩いたりしたら、
 悪化しちゃうかもしれないじゃないか」
「大丈夫よ、薬が効いたみたいだし。
 一番近くの食堂でさっと食べて帰るだけなら平気。行けるわ」

ふ〜・・・やれやれ。
これまた長年連れ添ったから分かってるんですけどね。
言い出したら聞かないんですよ、彼女は。

「OK。それじゃ、とにかく一番近いところに入ろう。
 店の選り好みはなしだ。いいかい?」

こうして完全防寒仕様に身支度を整えた僕らは、
しんしんと冷える夜の街に踏み出しました。
さいわい直近で入った店は、
お目当てのマントゥやキョフテがあっただけではなく、
サービスで温かいヤイラチョルパ(濃厚なヨーグルトのスープ)
まで出してくれたので、頑固なともこも納得したようです。
ところが・・・

「あ〜、美味しいね! 体が温まるよ」

「・・・・・・・・」

「ヤイラチョルパはアゼルバイジャンのドゥブガに似ているな。
 でも香りは違う。ハーブはミントしか使ってない」

「・・・・・・・・」

ともこが静かです。
ということは・・・

「ゴメンね、えーじ、後は食べてくれる?」

やっぱり。

そして、そそくさと取材を切り上げた僕たちは、
急いでホテルに戻り、寝かせた彼女の熱を測ってみれば・・・

む〜・・・38度か。また上がってきちゃったな。
カロナールを追加で飲ませよう。
この分だと明日のアヴァノス取材はキャンセルするしかないか・・・
ま、旅は始まったばかりだ。
先は長いから健康回復を優先した方がいい。

ともこはすぐに寝息を立て始めました。
長距離移動の疲れもあって、
僕も22時前には眠ってしまったようです。

彼女の咳で目を覚ました時、まだ窓の外は真っ暗でした。

ん・・・何時だろう? 5時か・・・
ともこは?

彼女は毛布にくるまって眠っていましたが、
僕が起きた気配で目を覚ましたようです。

「起きたの? 何時?」
「まだ早いよ。もう少し寝ていた方がいい」

僕は黙って体温計を渡しました。
やがて小さなピープ音のあと、表示を確認してみれば・・・

まずい。38.6度に上がってる。
たっぷり寝ていたのに解熱剤が効いていないじゃないか。
どうもただの風邪じゃなさそうだぞ。

僕らが投宿した安宿の部屋は床暖房で温かいのですが、
その狭さたるもの東横インのシングルルーム級。
そこに缶詰ですから、予防接種を受けていたとはいえ、
彼女が罹患したのがインフルエンザだとしたら、
僕もただじゃ済まないと思います。
実のところ、先ほど目を覚ました時から、
僕は自分の体調の変化に気付いていました。

喉がいがらっぽい。
それになんだか寒気がする。

そこで体温を測ってみれば・・・

37度6分か。
やっぱり感染したみたいだ。
ま、無理もない。
悪寒の状態からすると熱が上がりつつあるんだな。
成田を発った頃のともこの症状とそっくりだ。
もし同じ型のウイルスに感染したのだとしたら、
抵抗力と体力の差を引いても、
今の彼女のように動けなくなるまでざっと・・・
6時間ってところか。

僕は腕時計に目をやりました。
時刻は5時40分。

ってことは、遅くとも12時までに病院を探し出し、
なんらかの治療を受けないと、
このほとんど英語も通じない街で、
二人揃って行動不能になっちまうってわけだ。

BGM: Theme of Mission Impossible

なんとかしなくちゃ。

to be continued...

えーじ
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2019年04月05日

第17回取材旅行番外編 その2

取材旅行中は基本的に2日に1回ブログをアップしていますが、
時々間隔が開く時があります。

その理由はふたつ。

まず、インターネットに接続できなかったから。

先進国ではあって当たり前となったWi-Fiも、
けして世界標準という訳ではありません。

というか、南米高地の荒野とか北アフリカの砂漠など、
僕たちの守備範囲では携帯電話、いや電気すら、
『圏外』がフツーの場所も珍しくないのですよ。
(ちなみに今ブッキング中の次の取材地もそう・・・)

もうひとつは、ブログが書ける状況ではなかったから。

まぁ、陸路の国境越えでてんやわんや!
ではキーを叩く暇もありませんが、
別の意味で『書ける状態ではない』場合もあります。

この番外編では当時書くに書けなかった、
とあるインシデントをお話しましょう。

あれはトルコ・エジプト取材旅行でのこと。
日本を発った翌日、
イスタンブールで国内線に乗り換えようとしていた僕らは、
セキュリティエリアのベンチに座って、
カイセリへ行く飛行機の出発を待っていました。

そこで僕は最初の異変に気付いたのです。

ともこがおとなしい。

これはフツーではありません。

普段の彼女をご存知の方なら説明不要なように、
彼女は何をするにもエネルギッシュな人です。
日本語で申し上げますと、激しい人なのです。

加えて私事で恐縮ですが、夫婦の会話の方向性は、

ともこ → 僕 90パーセント
僕 → ともこ 10パーセント

なのですよ。

ご来店されたことのある方は、
お店のスポークスマンである僕を見ているので意外かもしれませんが、
僕は元来、いまは亡き健さんのように寡黙な男なのでございます。
不器用ですから・・・

話を戻しましょう。

そのともこがおとなしい。
しかも旅の始まりという、彼女がもっともハイになる局面で、
ほとんど喋らないじゃないですか。

これはおかしい・・・

そこで僕は、
22年余り連れ添った経験から学んだ彼女のプロファイルをもとに、
この状況の分析を始めました。
その結果、彼女がおとなしくなる理由は3つしかない、
という結論に達したのです。
それは・・・

理由1 お腹が空いている
これは該当しません。
機内食を食べてまだ3時間しか経っていない上に、
空腹であれば「おなか空いた!」と、
彼女は必ず自己主張することを忘れない人です。

理由2 怒っている
これも違います。彼女がご機嫌だった日本出発時から、
僕はともこの逆鱗に触れるようなことはしていません。
自己評価では実に良き夫だと思います。
(まぁ、僕が気付かないうちに怒っていることもありますけど・・・)

理由3 体調が悪い
ん? これは・・・心当たりがあります。
記憶を辿ると新宿を出発した成田エクスプレスに乗っていた時から、
彼女は時々咳をしていました。
そこで・・・

「どうしたの? 調子悪い?」
「ん〜・・・寒いの」

僕はここで確信しました。
僕にとって丁度いい気温を彼女は寒いと感じている。
極端な暑がりのともこからは考えられない回答です。

「熱があるんじゃないのかい?」
「うん・・・
 さっきのフライトは毛布を掛けても寒くて寝られなかったの。
 歯ががくがくしちゃうくらい。
 気持ちも悪いし・・・」

あ〜、やっぱりそうか。
原因は分からないけど症状からすると体温は38度を超えているな。
出発まであと40分。
このフライトに乗るなら空港の救護室に行っている時間はない・・・か。

「カイセリまでのフライトは1時間ちょっとだ。
 がんばれそうかい?」
「うん」

さいわい移動中の機内で出たサンドイッチと熱い紅茶で、
彼女の容態は少し良くなって来ました。
しかし、ホテルにチェックインして体温を測ってみると、

「まずいな、38.6度もある」
「え? そうなの? 体はさっきよりずっと楽になったけど・・・
 とにかく成田からのフライトの方がつらかったな」

僕はファーストエイドパックから解熱剤を探し出しました。
手持ちの薬だと、ここまでの高熱に使えるのはカロナールしかありません。

時刻は14時。

薬を飲んでベッドに入った彼女は、すぐ軽い寝息を立て始めました。

出発前はなにかと忙しかったし、
機内でも眠れなかったから疲れもあるだろうな。
とりあえず、これで19時くらいまで様子を見よう。

僕は曇った窓から雪化粧したカイセリの街を見ながら、
この旅のプランBを考え始めました。

to be continued...

えーじ
posted by ととら at 13:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年04月02日

アゼルバイジャン料理特集パート2

「やぁ! あんた日本人かい?」

2001年の4月。
カトマンドゥのタメル地区をぶらついていた僕に、
道端で新聞や雑誌を売っていた男が声をかけてきました。

「そうだよ」
「日本のプライムミニスターは誰だっけ?」
「え? 首相? 森総理大臣さ」
「Mori? いや、違うよ、そんな名前じゃない」
「Moriでいいんだよ」
「ノー、ノー! 確か・・・コジュ・・コジュミだ」
「コジュミ? 誰だいそりゃ?」
「ほら、この男だ!」

そう言って彼は入荷したばかりのTIME誌を僕に見せました。

え? なんで小泉純一郎が表紙になってるんだ?

「分かったよ。彼はKoizumiだ。でも首相じゃないよ。
 確か大臣でもない」
「ノー、ノー!プライムミニスターだ!」

しつこいな・・と思いつつ、彼が差し出したTIME誌を受け取り、
ページをパラパラめくってみると・・・

え? 森内閣が解散して小泉純一郎が総理大臣になったの!?

4月初旬から3週間に渡る南西アジアの旅に出ていた僕は、
すっかり日本の情報から取り残されていたのです。
(当時Wi-Fiなんてなかったし、パソコンも持って出かけませんでした。
繋げる場所もありませんでしたからね)

やれやれ・・・
自分の国の総理大臣を別の国の人に教えられるとは。

そして19年の時が流れ・・・

ふ〜・・・やっとメインキャプションが書き終わったぞ。
ともこに校正してもらわなくちゃ。

4月1日。
僕は朝からシャッターを下ろした静かなととら亭にこもり、
旅のメニュー変えに没頭していました。

そして一段落した夕方、気分転換にふとニュースを見ると。

ん? 新元号が発表された?
あれ、今日だったっけ?
いやいや、エイプリルフールじゃないか。
どうせ誰かのジョークに決まって・・・ありゃ? ホントだ!

令和になったんですね。
知りませんでした。

2001年の時は身も心もネパールにいましたし、
今度は頭の中がアゼルバイジャン1色になっていたので。

というわけで準備が出来ました!

アゼルバイジャン料理特集パート2!

明日から心身ともに日本に帰って、
皆さまのご来店をお待ちしております。

おやすみなさい。

えーじ
posted by ととら at 23:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年04月01日

ウソとホンネ

joke2019.jpg

若者の皆さま。
堅気の道を歩みましょう。

えーじ
posted by ととら at 16:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年03月31日

第17回取材旅行番外編 その1

映画ではお馴染みのディレクターズカット。

これ、劇場公開版にはない未公開シーンを含む、
ファン必見の別バージョンの作品ですが、
ととら亭のブログも取材旅行中には、
割愛したシーンがたくさんあるんですよ。

そこで今回は、
今年の1月から2月にかけて行ったトルコ・エジプト取材旅行から、
お待ちかねのNG・・・
もとい、未公開シーンをお話しましょう。

まずは機内食。
前回のブログでもちょろっと触れましたように、
世界的に経営が厳しい航空業界では、
昨今、経費削減の嵐が吹き荒れ、
僕らの目につくところでも明らかにアメニティのグレードが下がったり、
会社によってはキャビンクルーたちのユニフォームですら、
シミやほつれがそのままだったりしています。

そうなると当然、機内食も例外ではありません。
とりわけ宣伝材料にはならないエコノミーシートだった場合、
料理のふたを開けてみれば、

「なんじゃこりゃ?
 これなら空港でパンでも買って持ち込めばよかった!」

という泣ける中身もしばしば・・・

ところが航空業界全体がそうとは限りません。
例外の一社は、
この旅でお世話になったターキッシュエアラインズさん、

しかし正直申しまして、2007年に乗った時は、

「む〜・・・
 これならフツーにドネルケバブでも出してくれないかしらん?」

な内容でした。(特に成田→イスタンブール便は悲しかった・・・)

ところがその記憶があってあまり期待せず乗った2017年には、

「ん? こりゃ美味しくなったね!」

となり、それが今回は前菜とメイン、パンからデザートまで、
すべておいしくなっていたのですよ!
しかもこれが1回だけのまぐれではなく、
カイロからイスタンブールを経由して成田まで帰るフライトで食べた、
3食全部で続くハットトリック!
通常、僕らがほとんど手をつけない朝食ですら、
完食してしまう感動ものでした。

eg_airmeal03.jpg

まずはこれ、カイロ、イスタンブール間でサーブされたディナー。
いきなりサラダが美味しかった!
何と言ってもエジプト滞在中は非加熱食品がご法度でしたからね。
二人とも無言で馬のように食べ始めましたよ。
メインはラムキョフテのライス添え。
ガロニの野菜ソテーもほどよくスパイシーで、
ライスと和えたらおかわりが欲しくなりました。
パンも温かくて香ばしいし。
デザートは甘みの丁度いいコーヒームースです。

eg_airmeal02.jpg

イスタンブール、成田間のフライトはさらに食事がグレードアップ。
前菜はサラダにフェタチーズとオリーブが入っていました。
ん〜、これだけでもどんぶり一杯食べたい!
それとジャジュク
(ヨーグルトでキュウリを和えミントで香りを付けたペースト)。
そしてメインはチキンのカフェ・ド・パリ風。
これ、一見チキンカレー風ですけど、
フランス生まれのスパイシーなソースでチキンを煮込んだ料理なんですよ。
野菜もゴロゴロ入っていてボリューム満点。
とても美味しかったです。
デザートはラズベリー風味のチーズムース。
完璧だ!

eg_airmeal01.jpg

通常、機内の朝食と言えば、
かまぼこみたいブリブリしたオムレツが定番なので、
僕らはいつもパスしてしまうのですが、
メニューを見たら、

「ん? フムス(ヒヨコマメのゴマ風味ペースト)?
 じゃ、パンに付けてこれだけ食べようかな?」

と見くびっていたらこの通り。
なんとメインはナスのドルマのライス添えじゃないですか!
危うく食べ逃して後悔するところでした。
ん〜・・・トルコ国内で食べたロカンタ級に美味しかったです。
デザートは3回続けて料理業界でいうところの簡単な『流しもの』ですが、
カスタードムースはほど良い甘味とコクもあり、
サーブの仕方を変えてデコレーションすれば、
ととら亭でも十分出せるくらいのグレードでした。

かつて羽振りの良かった中東系のエミレーツさんでさえ、
以前に比べてエコノミークラスのサービスグレードが下がりがちな昨今、
この地道な力の入れようは嬉しいですね。

きっかけは2016年のクーデター未遂事件で戒厳令がひかれ、
テロが散発して観光客が激減したことだと思いますが、
その努力が評価されたのか、
2017年、19年ともに搭乗率は、どの便もかなり高かったです。

もしかしたら、
イスタンブールのアタテュルク国際空港にあるフードコートも、
安くておいしいので有名になってきたのかもしれませんね。
(僕らのお気に入りは一番奥の右側になるトルコ料理の店)

そうか、トルコ料理は世界の3大料理のひとつでした!

えーじ
posted by ととら at 23:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年03月28日

スーツを脱いでも

農業、漁業、乳業に畜産・・・

旅の食堂という仕事上、関連する業界のニュースには、
常日頃アンテナを張っています。

航空業界もそう。

外国に行くとなれば、
僕らの場合、ほぼ確実にお世話になりますからね。
とりわけセキュリティ(セーフティ)関連の話題は、
自分の命もかかわってくる問題なだけに敏感です。

そこでいやでも目につくのが事故のニュース。
先日のエチオピア航空の件だけではなく、
昨年発生したライオンエアーのインシデントは、
新鋭機の事故だったこともあって、
原因からその後の経過も含めてずっと追っていました。

いずれも全体像はまだはっきりしていませんが、
なんとなく目新しい話じゃないな・・・
という気がしています。

と申しますのも、
断片的に報道された情報を並べてみますと、

1.ボーイング737のメジャーアップグレードが行われた。
  中でも大きい変更点は大型で燃料効率に優れたエンジンの導入。
  そのためエンジンの取り付け位置が従来より機体の前方になった。

2.それに伴い機首が上がり易くなり、
  旧型より失速のリスクが増えてしまった。

3.そこで操縦支援を目的として失速の危険が発生した場合、
  自動的に機首を下げる操縦支援装置(MCAS)が『標準』で実装された。

ここまではなるほどね、という感じです。

が!

MCASの前段にある、
気流に対する翼の角度(迎角)を検知するセンサーが誤作動した場合、
機体はパイロットの意に反して機首を下げてしまい、
最悪は墜落してしまう・・・

今回はこの可能性が最も高いと考えられているようですね。

ボーイング社もこの危険性は織り込み済みだったようで、
機首の2カ所に取り付けられた迎角センサーの値に矛盾が生じた場合、
異常を知らせる装置を『オプション』で用意していたそうですが、
残念ながらエチオピア航空機はこれを実装していなかったとのこと。

しかし、異常を知らせるセンサーがなかったとしても、
機首が意に反して下がるという異常事態が発生した場合、
最も疑わしいMCASを、パイロットはなぜオフにしなかったのか?

いや、どうやら先に事故を起こしたライオンエアーのパイロットは、
一時解除の仕方を知っており、
実際に墜落するまで解除操作を24回もやっていた記録があるそうです。

ところがこれはたった40秒間しか解除状態を保持できず、
すぐにまた元に戻ってしまうため、完全にオフにするには、

1.MCASが一時解除されている40秒の間に、
  自動制御用のモーターへの通電を遮断する。
2.車輪を下ろす。

という方法があるそうで。

ここで二つ目の疑問が出てきます。

なぜパイロットはこの完全解除操作を行わず、
結果的に飛行機が墜落してしまったのか?

答えは『この操作方法を知らなかったから』という、
悲しいくらい単純なことでした。

と、ここまでの話で、
大なり小なりシステム開発に携わったことのある方なら、
ピンときたのではないかと思います。

これ、実によくある話じゃないですか?

カネのかかるシステム開発で、
最初に削られる予算はセキュリティ(セーフティ)関連です。

でしょ?

なぜか?

セキュリティ(セーフティ)関連の機能がなくても、
システムの基本部分は動作するからです。
たとえばウェブサーバーシステムの場合、
極端な話、DMZにファイアウォールを設置しなくても、
ユーザーはウェブサイトを閲覧できますからね。

だから資金力の乏しい国営のエチオピア航空が、
『オプション』を実装(購入)していなかったのは、
なんの不思議もありません。

続けてセキュリティの次に削られる予算は、
たいていユーザー(今回の場合パイロット)の教育費です。

これもIT稼業の現役時代、実によくぶつかった問題でした。

システムというのはどんなものでも、
電源を入れると勝手に仕事をしてくれる完全自律型ではありません。
いずれも人間が使って初めて結果が出るのです。

とはいえ、
どのプロジェクトでも奇妙なまでに共通して軽視されたのが、
ユーザーの教育でした。
『使いながら慣れる』は、
資本主義社会におけるシステム開発の合言葉ですからね。

しかしトライアル・アンド・エラー型の導入が許されない現場もあります。
それはエラーの代償が計り知れない原子力関連、医療、そして航空業界。

それでも自由競争が幅を利かせている現状では、
建前はともかくとして、内部を支配する優先順位が、
何よりも企業の利益となるのは当然の帰結ではないでしょうか?

ここで観客席から企業の経営陣を叩くのは簡単です。
でも、僕たちが彼らの立場だったら・・・どうでしょう?

むき出しの競争原理が国境を越えて働く航空業界で生き残りをかけ、
彼らとは違う判断が出来たでしょうか?

不可欠とはいえ、
短期的に直接利益を生まないセキュリティ(セーフティ)と教育。
おカネありきの世界でこの矛盾にどう取り組むべきなのか、
業界と就労上の立場を超えて、
僕たちは例外なく何らかの当事者なのかもしれない。

スーツを脱いで10年近くが経っても、
僕は今さらながらに、そんなことを考えていたのでした。

えーじ
posted by ととら at 17:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年03月24日

僕の教科書

東京では桜が咲き始めました。
春も本番ですね。
この時期になると若手のお客さまから、
入学や入社など新しい旅立ちの話をよく聞きます。

そんな時、
期待と希望に輝く彼、彼女たちに贈るのは、

「おめでとう! いってらっしゃい!」

しかし中には、
進路が第1志望にならなかった、
試験や面接が不本意な結果に終わった、
と浮かない表情の人たちの姿も・・・

そうした場合、これもまたひとつの出発とはいえ、
「おめでとう!」・・・
とは声をかけられないんですよね。

実際、長い努力の結果が期待どおりにならなかった現実は、
年端もいかない若者にとって、
かなり大きなショックだったことでしょう。

でも、
もし僕たちが世代を超えて求めているのが、
身の丈に応じた幸せであるなら、
ひとりの大人として、こうは言えると思うのです。

長い目で見れば、
試験の点数や給料明細の数字は、
僕たち個々人の幸せの一要素にこそなれ、
決定的なものではないんだよ・・・と。

ま、これは僕もオジサンになってから、
分かって来たことなんですけどね。

たとえば、ととら亭や旅先で出会った沢山の人々。

その中で僕らが幸せそうだなぁ・・・
と思えた人たちに共通していたのは、
学歴や収入、社会的な地位よりむしろ、

自己イメージと現実の自分とのギャップが少なく、
勝ち負けでものごとを判断せず、
価値の基準を自分の中に持ち、
子供のような好奇心があり、
異質性に寛容で、
足るを知る。

そしてユーモアと思いやりの気持ちを忘れない。

こんな特徴でした。

いいですね。
素敵なだなぁ・・・と素直に思いましたよ。

もちろん、こうした人たちだって、
落ち込んだり悲しんだりすることは避けられません。
同じ人間ですからね。

でも、その困難な状況へ向けた姿勢が、
いわゆる『王道主義』の人々とはまったく違うんですよ。

僕にとって間近で接した彼、彼女たちの存在は、
宗教の経典や哲学書以上に実用的な、
生ける教科書でした。

言葉ではなく、行動・・・いや、生き方にこそ、
他者を変える力がある。

その通りだと思います。

えーじ
posted by ととら at 18:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年03月22日

ととらな買い物 トルコ・エジプト編

締めくくりは、
取材先の国で必ず買うものをご紹介しましょう。

treg_flags.jpg

そう、国旗です。

2012年夏のヨルダン料理特集以来、
紹介している国の国旗を、
店内でディスプレイすることにしたのです。

場所はともこの立ち位置前にあるネタケースの右上。
旗はだいたい横20センチ×縦14センチくらいの大きさですから、
あまり目立ちませんが、
カウンターに座ったお客さまから時々ご質問を頂くことがあります。
国旗というのは意外と知られていませんからね。

これは料理を入り口にその国の文化を伝える僕たちにとって、
話のネタ以上に便利なアイテム。

国旗で使われる色や図案は、
建国の経緯や理念などを象徴している場合が多く、
その意味を知ることが、
国や民族を理解する早道になったりもするのですよ。

たとえば写真左のエジプトの国旗。
解釈は諸説ありますが、
赤は1952年のエジプト革命以前の革命で流された血を、
白は無血で専制を打倒した未来の到来を、
黒は植民地支配と専制君主の圧政の終わりをそれぞれ表しているそうです。
そして中央に配置されている国章は、
聖地エルサレムで十字軍と戦ったイスラム世界の英雄サラディンの鷲。
これは汎アラブ主義のシンボルだそうな。

片や右のトルコ国旗は時代をさらに遡るもので、
オスマン帝国の旗がほぼ同じデザインで踏襲されています。
しかしながらその意味は少々謎に包まれており、
イスラム教のコンテクストで三日月は発展を、
星は知識を意味すると言われていますが、
戦いで流された血の海に映った月と星だという説や、
オスマン1世やメフメト2世の幻視説、
はてや古代ギリシャまで遡る女神の象徴説など諸説紛々の状態。

シンボルの解釈というのは、
学者の間でも統一的な見解を得るのが難しいそうですね。
でもそこがまた誰もが参加できる余地があって面白い。

さて、うんちくはこの辺までにして、
国旗はどこで買うのかと申しますと基本的には土産物屋です。
しかし、困ったことに、
どこを探しても売っていない国がしばしばあるのですよ。

たとえば今回行ったトルコ、エジプトもそう。
イスタンブールのグランバザールならあるだろうと思いきや、
これがまったく見当たらない。
アタテュルク国際空港のセキュリティエリアにある売店もダメ。
やっとのことで見つけたのが、
空港と地下鉄の駅を連結する通路にあったキオスクです。

エジプトではルクソールのスークや、
カイロのハン・ハリーリでもぜんぜん見当たりません。
これも結局、最後のチャンスの空港で見つけました。

他の例ではインドネシア、チュニジア、
モザンビークなどでも大分探しましたね。
こうした国々では国旗が売れることも殆どないようで、
僕らが尋ねると売り手はきょとんとした顔をしていたっけ。
しかしビジネスチャンスを逃してはいかんとばかりに、
在庫になければ他の店にも当りはじめ、
ようやく探して来たと思ったら・・・

「ひゃ〜、なんだいこりゃ、ボロボロじゃないか!」
「だんな、そんなことありませんぜ! アンティークですよ!」

っておいおい。

そんなこんなで汚れ一つにも何らかの思い出がある国旗でした。

えーじ

P.S.
ちなみに国旗の購入担当はともこです。
彼女が決めた購入予算は日本円で100〜200円。
時には交渉以前に売値が高く、ノルウェーやスウェーデンなど、
物価の高い北欧では諦めたケースもありました。
(1本800円くらいしたのですよ!)
ま、北欧特集をやる時はネットで売っているものを買うか、
簡単な図案なら自作だな。
posted by ととら at 00:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年03月19日

ととらな買い物 エジプト編その2

いつまでも思い出に残るのは、
ぱっと目に入って衝動買いしたものより、
てま暇かけて手に入れた自分だけの何か・・・

ですよね?

その点では今回、
僕らはとあるミッションを持ってカイロに行きました。
それは・・・

パピルスに
ヒエログリフ(象形文字)で『ととら亭』と書いてもらうこと!

エジプトのヒエログリフは漢字と同じく表意文字なので、
『ととら』などという古代エジプトには存在しなかった概念は、
表現できないと思っていたのですが、
ちょろっと調べてみると、
ひらがなやカタカナのように、
音だけを表す機能も持っているそうじゃないですか。
それなら同じく表音文字であるラテン文字表記の『TOTORATEI』を、
ヒエログリフでも表現できるはず・・・と考えたわけです。

しかし、土産物屋が密集するハン・ハリーリに行っても、
『ヒエログリフ書き承ります』なんて看板はどこにも見当たりません。

さて、どうしたもんだろ?

こういう場合は道に迷った時と同じように Ask and Go が一番。

そこでまずエジプトポンドの残りが乏しくなった僕らは、
土産物屋さんに入って両替屋の場所を訊くことにしました。

「アッサラーム アライクム(こんにちは)」

アラビア語圏ではこの挨拶から始めると、
(特に右手を左胸に当てて言うと)
扱われ方ががらっと変わります。

「ワ アライクム サラーム(先の挨拶の返し言葉)」

おや? という顔をして初老の男性が応えてくれました。

「この辺に両替屋はありませんか?」
「両替屋ねぇ・・・あいにくこの辺にはないな。
 ATMならその角にあるよ」
「あそこの機械では僕のキャッシュカードが使えないのですよ」
「なるほど。いくら両替したいんだい?」
「100米ドルです」
「なんだ、そのくらいならわしが両替してあげるよ。
 レートは・・・1700でいいかな?」

ん〜・・・まぁ、端数を切ってそんなものかな。

「OK。お願い出来ますか?」

彼は自分の財布を取り出し、中身を数えると、

「おっと・・・少し足りないな。ここでちょっと待っておいで」

そう言って隣の店に入っていきました。
そして間もなく、

「100、200・・・1700、よし」
「シュクラン!(ありがとう)」
「アフワン(どういたしまして)」

親切な人だな。それじゃ序に・・・

「もうひとつお聞きしてよろしいでしょうか?」
「もちろん」
「実はパピルスにヒエログリフを書いてくれる店を探しているのですよ」
「ヒエログリフを?
 ふむ・・・そうだな、それなら心あたりがある。
 案内しよう」

そういうとご主人は素早く腰を上げ、
店の奥にいた青年に店番を任せて表通りに出ました。
彼が連れて行ってくれたのは、
僕らではたちまち迷ってしまいそうな路地裏にある画商です。

「ここならヒエログリフを書いてくれるだろう」
「わざわざ案内までして頂いてすみません」

そう言って幾許かのお礼を渡そうとすると、
彼はその隙を与えず、
優し気な微笑みを残して踵を返してしまいました。

日本ではムスリム(イスラム教徒)というと、
すべからくテロリストのようなイメージを
持たれてしまった感がありますけど、
実際は彼のように、異教徒でも困っている人がいれば、
見返りを求めずに助けようとする人が沢山います。
これ、実はコーランに書かれた教えでもあるのですよ。

さて、今回は値段交渉だけではなく、
細かいやり取りもあるので僕の出番。
なるほど先のご主人が言っていた通り、
こちらの要望を話すと心得たとばかりに、
その言葉をラテン文字で書いてくれと言われました。

そして次はサイズです。
手近にあった既存の絵を元に40センチ四方のパピルスを選び、
値段交渉のはじまりはじまり〜。

先攻は画商のお兄さん。
初球は・・・直球で50ドル?

ほぉ〜、さすがカイロの観光地とあって、
すました顔でいい値段を言って来るじゃないか。
とまれ紹介してくれたご主人の顔もあるので、
中央値からやや先方寄りを狙ってみますか。

そこで僕もしれっと10ドルから始め、
お互いポーカーフェイスでじわじわと歩み寄り、
30ドルでディール。

さぁ、それじゃ書いてもらおうかな・・・と思ったら、
店員のお兄さんは、
切り取ったパピルスと『TOTORATEI』と書いた紙を持って、
外へ行ってしまいました。

店の中は僕たちしかいません。

こういうの、日本ではあり得ませんが、
神さまという最高の警備員がいるイスラム教の世界では、
よくあることなのです。
(コーランで禁じられた盗みを働くと、
 背後にいる不可視の守護天使に記録され、
 最後の審判の日に御裁きにあいます)

そうして店番(?)をしながら待つこと30分。
おいおい、どこへい行っちまったんだ?
と思って外を見ると、
店員のお兄さんが小走りに帰って来ました。
そして店内に入るなり広げたパピルスを見てみれば・・・

ほぉ!

遠路はるばる来て、
さらに待ったかいのある『作品』に僕は大満足。
代金を払って握手をしたらミッション終了です。

ところが・・・

「ん? どうしたの?」
「がっかりしちゃった・・・」
「何が?」
「ヒエログリフ・・・なんだかちんまいんだもん」
「ちんまいって、TOTORATEIをヒエログリフで書いたらああなるんだよ」
「なんかもっとさ、デコレーションとかしてくれると思ったの」
「ああ、サマルカンドで書いてもらったアラビア語版みたいに?」
「そう!」

eg_hieroglyph02.jpg
(ともこが思い浮かべていたもの。
これはアラビア語でTOTORATEIと書いてあります。
ちなみに右から左に向かって読むのですよ)

「あれは話が別だよ。
 だってさ、文字列をカルトゥーシュで囲んだりしたら、
 意味がととら『王』になっちまう」

と言っても納得していない顔してるということは、
完成形がイメージ出来てないんだな。

そこで帰国後に新宿の世界堂さんで額装して頂き・・・

「ともこ〜、ヒエログリフが完成したよ!」
「え〜っ! 見せて、見せて!」
「じゃあ〜ん!」

eg_hieroglyph01.jpg

「わぁ〜すごい! ステキ! 見違えるようになったね」
「装飾されたアラビア語もいいけど、
 シンプルなヒエログリフだってお洒落だろう?」

と、いうわけで、
一時もの言いのついたミッションではありましたが、
終わり良ければすべて良し。

店内で見上げる度にこのストーリーを思い出す、
ととら亭らしいお買い物となったのでございます。

えーじ
posted by ととら at 00:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年03月16日

ととらな買い物 エジプト編その1

ミュージアムショップにCD屋、そして金物屋・・・

ここまでの買い物話からすると、
へそ曲がりの僕らはせっかく外国へ行っても免税品店はおろか、
土産物屋にも足を踏み入れることがないような印象を、
与えてしまったかもしれません。

しかし事実はさにあらず。

好きです。お土産物屋さん。
必ず行きます。

でも買うものは、ちょっと違うかもしれません。

たとえばエジプトと言えば、
ガラス瓶の中のサンドアート、ピラミッドの置物、
アヌビス人形、パピルスに描かれた風景画などが定番でしょう?

ところが僕らの買い物リストに入っていたのはこれ・・・

eg_ankh03.jpg

なんだか分かります?

eg_ankh02.jpg

これはヒエログリフ(象形文字)でもあり、

eg_ankh01.jpg

祭器でもある生命の象徴、アンクです。

旅の食堂としての店内ディスプレイに何かいいものはないかな?
と考えて思い当たったのがこれ。

実は20年くらい前に、
ハワード・カーターの『ツタンカーメン発掘記』を読み、
この謎に満ちた王の名を厳密に書くと、
トゥト・アンク・アメン (Tut-ankh-amen)となることを知りました。
で、この名を直訳すると『アムン神の生ける似姿』となり、
『生ける』部分に使われる文字がアンク(ankh)なのですよ。

生命を象徴するヒエログリフ・・・
ととらっぽくていいじゃない?

さて、それじゃどこで買おうかな?

一般的に土産物は首都より地方の方が安いですから、
ルクソールのスーク(市場)がいいだろう、ということで、
またしても、ともこさんの出番となったのでございます。

今回の被害者・・・いや、取引相手は、
数回通ったエジプシャンレストラン『Jamboree』の下にある、
土産物屋のお兄さん。

レストランに出入りするたびに言葉を交わしていたので、
彼のところで買おうということになりました。
アンクは大きさの大小もさることながら材質も木製から陶製、
金属製などさまざまなバリエーションがあったので、
こちらのイメージを伝えつつ交渉開始!

こういう場合、一般的に僕は交渉のアシスト役だと思われますが、
実は困って「助けてくれ!」という視線を送って来るのはお店の人の方。
ですから僕は彼女をひとり残して近くの店をブラブラしています。

ほどなくして戻ると大抵、やれやれと天を仰ぐ店員さんの横で、
勝ち誇る彼女の姿が・・・

ま、もちろん相手の利益を無視したハードネゴはしてませんけどね。
(と思います)

こうして手に入れたものは、
見るたびにその時の光景が思い浮かぶものです。
彼女の場合、その思い(勝利の余韻)はひとしおでしょう。

えーじ
posted by ととら at 16:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記